IoMT (Internet of Medical Things:医療分野のIoT)とは、IoT(モノのインターネット)テクノロジーのサブカテゴリであり、医療健康情報テクノロジーで使用され、相互に接続されたデバイスやアプリケーションで構成されます。IoMTデバイスは、安全なネットワークを介して情報を送信することで、患者と医師と医療機器(病院設備、診断装置、ウェアラブルテクノロジーなど)をつなげます。
IoMTは、ヘルスケアIoTとも呼ばれることもあり、一般的なIoTデバイスと同様に、自動化技術やセンサー、マシンベースのインテリジェンスを活用して、日常的な医療処置や監視業務での人手への依存を軽減します。またIoMTを導入すると、患者と医療従事者が患者の医療情報に広範にアクセスできるようになるため、クリニックや病院への不要な通院が減るだけでなく、患者と医療機関双方のコストが削減されます。
IoMT市場が成熟するにつれて、遠隔医療と遠隔治療は従来の医療の姿を大きく変え続けています。IoMTは正確で行き届いた診断やタイムリーな治療を実現するとともに、患者と医療機関双方のコストを削減しています。
Mayo Clinicによれば、遠隔医療とは、「コンピューターやモバイルデバイスなどのデジタル情報や通信テクノロジーを使用して医療サービスにリモートからアクセスし、自身が受ける医療を管理すること」と定義されています。「医療」という言葉と同じように、遠隔医療とは、患者と医師のコミュニケーション、診断、継続的な監視、教育やカウンセリングなどの幅広い活動を含みます。
一方、遠隔治療は一般に、臨床サービス(リモート診断と患者の監視)を提供するテクノロジーベースの医療ツールを指す、より狭い意味の言葉として使われてきました。
遠隔治療は2000年代に登場しましたが、当初その範囲は限られていました。初期の遠隔治療アプリケーションはあくまで臨床目的のもので、映像で潜在的な患者をスクリーニングしたり、離れた場所からICU内の患者のバイタルサインを監視したりといったサービスに限定されていました。遠隔治療が進化するにつれて、その機能は臨床医学の境界を越えて急速に拡大し、より広範な意味を持つ遠隔医療という言葉が生まれました。現在、遠隔医療は、臨床サービスだけでなく、医師のトレーニングやビデオチャットルームで開催される運営会議なども含む広い意味の言葉となっています。
かつてはっきりとした違いがあったこの2つの言葉は、現在では柔軟に使われるようになり、同じ意味で使われることも多くなっています。
遠隔医療と遠隔治療が、どちらもさまざまなテクノロジーやサービス、戦略を指すのに対し、IoMTは、厳密には遠隔医療や遠隔治療を機能させるデバイスを指します。IoMTの接続性がなければ遠隔医療はほぼ不可能であり、同時にIoMTデバイスはそれだけではほとんど役に立ちません。たとえば、患者の血圧を毎日記録し、測定値をクラウドにアップロードするデバイスは、それだけではその患者の健康状態の改善に何も貢献しません。そこには、測定値の解釈から状態の診断、治療計画の立案、治療の提供、患者の長期的な監視にまで対応する、広範な遠隔医療ソリューションが必要です。こうした作業の一部はAI(人工知能)や機械学習といったコンピューターベースのテクノロジーで行えることもありますが、いずれかの時点で人間の医師が実際に関わる必要があります。
IoMTは、患者と医療機関の双方に非常に多くのメリットをもたらします。
IoMTの導入にはそれなりの難しさがあります。中でも最大の課題は、セキュリティとプライバシーです。医療データは、特に医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)によって厳しく規制されています。その結果、医療機関はセキュリティ侵害を防ぐために大きな負担を強いられています。IoMTデバイスを導入すると、患者と医療機関の間でやりとりされるデータが大量に増えることなどが原因で、リスクが一定程度高まります。
IoMTベンダーにとっては相互運用性と標準規格もハードルになります。あるベンダーのヘルスケアIoT機器が別のベンダーのインフラストラクチャでシームレスに動作するのが理想です。しかし、現在のところは困難な状態で、標準規格も統一されていません。一部に認証に取り組む動きも見られますが、医療・ライフサイエンス業界全体で統一された相互運用性が実現するのは当分先となりそうです。
もう1つの問題であり、おそらく解決が最も難しいのは、IoMTデバイスを更新できないという点です。発売されたばかりのときには最先端であっても、いったん現場に導入されたIoMTデバイスは、アップグレードや新機能の更新が簡単にいかないことがあります。利用者が自分のウェアラブルデバイスやコネクテッドデバイスを毎年アップグレードする可能性は低く、病院は高価な新しい機器をすぐには導入しないことが多いため、医療分野の市場には機能の異なる製品がパッチワークのように存在するようになります。手術によって体に埋め込まれるペースメーカーなどの移植可能なデバイスは、アップグレードがさらに困難です。
IoMTデバイスのカテゴリは多岐にわたります。主なものは次のとおりです。
IoMTデバイスは、利便性、治療の質の向上、コストの削減など、医療分野にとって数多くのメリットをもたらします。しかし、こうしたメリットはすべて一定程度のリスクを伴います。このため、IoMTデバイスではセキュリティが何よりも重要です。フロスト&サリバン社の予測によれば、医療セキュリティ分野の市場は、単独で2023年までに87億ドル規模に達します。
患者が直面する最も重大なリスクは、個人的な医療データが失われることで混乱が発生したり、漏洩した場合に自身に損害が発生したりする可能性があることです。このリスクは医療機関にも重くのしかかります。顧客のデータが漏洩すれば、金銭的に、また刑事的にも責任を問われる可能性があるからです。さらにHIPAAは、違反している医療機関に最大で毎年150万ドルの罰金を科すと定めており、実刑判決を受ける可能性もあります。このため、極めて厳しいセキュリティ手順に従って患者データを保護することが不可欠です。
また、ハッカーが狙っているのは個人の医療データだけではありません。医療従事者や医療機関は、ほかにもさまざまな種類の攻撃を受けます。ハッカーが他人の資格情報を使用して投薬や医療サービスを受ける医療詐欺が頻繁に発生しています。また、他の業界がコンピューターネットワークを介して攻撃を受けているのと同様に、医療業界でもサイバー犯罪者は、医療情報を狙って特定の医療機器(スマートペースメーカー、血糖モニター、インスリンポンプなど)を攻撃し、さらにはオンラインで機器を動作不能にして身代金を要求し、患者をリスクにさらす可能性があります。IoMTデバイスは、こうしたあらゆる種類の攻撃のエントリポイント(または直接のターゲット)になり得ます。
IoT(モノのインターネット)は、スマート冷蔵庫やコネクテッドサーモスタットから、産業用ロボット、スマートカーに至るまで、総計で70億以上のデバイスが含まれる壮大なカテゴリとなりました。IoMTはIoTのサブカテゴリであるため、2つのカテゴリには当然ながら共通点が多くあります。
ヘルスケアIoT (IoMT)デバイスには、手術支援ロボットなど、本質的に医療のみを目的としたものが多いです。一方、一般的なIoTのカテゴリに入ると見なすことができるIoMTデバイスも数多くあります。たとえば、脈拍や血中酸素の監視といった明らかにIoMTの機能を実行するスマートウォッチは、テキストメッセージを受信したり、行き方を調べたりといった目的で使用される一般的な消費者向けデバイスでもあります。
長期的には、IoMTやIoTのその他のサブカテゴリとIoTを分ける境界線はますます曖昧になっていくと考えられます。
IoMT市場は、利用者と医療機関という2つの大きなグループに分けられます。医療機関は、さらに医師、研究所、臨床医、病院経営などのさまざまな医療分野のサブグループに分けることができます。製薬会社やドラッグストアなどの小売業者を、IoMT市場の二次的なメンバーと考えることもできます。
デロイト社は、先頃、世界のIoMT市場が1,580億ドルを超える規模に達し、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域に均一に広がるとの予測を発表しました。南米と中東/アフリカ地域市場の患者数は比較的少ないものの、相当数に上ると予測されています。
IoMTデバイスは従来の医療や患者のケアを一変させつつあり、この傾向はいっこうに衰える気配はありません。デロイト社によれば、50万種類以上のIoMTデバイスがすでに流通しています。こうした新しいIoMTテクノロジーは、患者と医療従事者の距離を縮めているだけでなく、これまでになかった種類の治療を可能にし、利用者の生活の質を高めています。
IoMTデバイスとヘルスケアIoTによって、医療従事者は正確な診断をすばやく下せるようになり、リスクのある患者の監視を強化できるようになっています。また、医療サービスの総コストが削減され、これまで医療サービスを利用できなかった患者にまでサービスの範囲が広がっています。病院やクリニックも、IoMTを活用して医療ITシステムの運用効率を高め、コストを削減しています。
IoMTは、将来現実のものとなるかどうかわからない、仮定上のカテゴリではありません。IoMTテクノロジーはすでに私たちの身の回りにあり、自分の健康を管理する患者の能力を高めます。さらには、医療従事者とのコミュニケーションの質を向上させて、数百万という人々の人生に変化をもたらしています。また、IoMTは医師をはじめとする医療従事者にとっても重要なテクノロジーとなりつつあり、医師は短時間でより正確に診断できるようになっています。しかも、患者を直接診なくて済むことも少なくありません。IoMTは経済的なメリットも大きく、今後数年で数千億ドルものコストを削減すると予測されます。
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