共同執筆者:ドリームチーム
Sophie Dockstader (サステナビリティSME兼セキュリティ担当PS)、Marc Thomas (シニアセールスエンジニア)、Javier Sanz (シニアソリューションエンジニア)、Carrie Christopher (Splunk ESG/サステナビリティ担当シニアディレクター)
AIは、サステナビリティの課題解決を前進させる大きな可能性を秘めています。たとえば、AIを活用することで、2030年までに世界の温室効果ガス排出量の5〜10%を削減できると試算されています。Google社とBoston Consulting Group社の共同レポートによると、その量はEU (欧州連合)の年間総排出量に相当します。
一方で、AIの普及と活用は、サステナビリティの課題を深刻化させる懸念もあります。このブログ記事では、データセンターの領域でAIとサステナビリティを効果的に両立するためのSplunk Sustainability Toolkitの活用方法をご紹介します。
Bloomberg Intelligenceによると、生成AIの市場規模は2022年の約400億ドルから2032年には1兆3,000億ドルに拡大すると見込まれます。この成長に伴って、AIに対応したデータセンターの建設が加速し、計算資源の高密度化がかつてないペースで進んでいます。DataCenterKnowledge社は、データセンターの電力フットプリントが2025年までに50%増加すると予測し、Statistaは、データセンターのトラフィックが2024年までに2010年の50倍に達すると見込んでいます。データセンターは今や基幹インフラであり、こうした需要を満たすには1ラックあたりのサーバー収容数を増やすことが急務となっています。
データセンターの電力消費量を測定するために役立つ指標の1つが「ラック密度」です。ラック密度は、1台のサーバーラックに収容し動作させることのできるコンピューティング機器の台数(kW/ラック)を表します。
上のグラフを見てわかるとおり、データセンターの平均ラック密度は急速に高まっています。当初、データセンターで扱われていたデータは、人間が作成したテキスト、画像、音声、動画ファイルなど、人間と機械との間でやり取りされる比較的単純な「Human to Machine (H2M)」データでした。今後は、生成AIなど、機械同士でやり取りされる「Machine to Machine (M2M)」データが増えていくでしょう。この変化に対応するには、ラック密度を高める必要があります。一般的にM2Mデータの処理には、これまで標準的だったH2M向けデータセンターの構成と比べて高密度、高集積のITインフラが求められます。たとえば、Jones Lang Lasalle社のレポート『Data Centers 2024 Global Outlook』によると、AI画像生成アプリケーションの処理にはテキスト生成アプリケーションよりもはるかに多くの電力が必要になります。
こうした動向を踏まえて、データセンター事業を展開するDigital Realty社は、最大70kW/ラックのワークロードに対応した高密度コロケーションサービスの提供を開始しました。第一歩としてはすばらしい取り組みですが、AIとハイパフォーマンスコンピューティングを支えるには最大100kW/ラックのラック密度が必要になると見込まれるため、将来の需要に対応するにはまだ不十分です。
Meta社は、AIを支えるサーバーとデータセンターの整備に数十億ドルを投資する計画です。また、AI推進を支援するために、2024年の設備投資額の見通しを引き上げ、350億~400億ドルに訂正しました。『エコノミスト』誌によると、Microsoft社、Alphabet社、Amazon社も、2024年1月~3月だけでデータセンターの拡張に合計400億ドルを投資しています。
Statistaによると、GPT-3などの大規模言語モデル(LLM)のトレーニングで消費される電力量は1カ月あたり約1,300MWh (メガワット時)にのぼります。
この数字は、ドイツの一般家庭約4,500世帯の1カ月間の平均電力消費量を上回ります。
(Clean Energy Wireによると、ドイツの一般家庭1世帯あたりの平均電力消費量は年間で約3,500kWh、1カ月あたり約292kWhです。)
ゴールドマン・サックスと世界経済フォーラムの分析によると、現在、世界全体の電力消費量のうちデータセンターの消費量が占める割合は1〜2%で、そのカーボンフットプリントは航空業界を上回っています。しかも、この割合は10年以内に3〜4%に増加する可能性が高いとゴールドマン・サックスは予測しています。Bitkom (ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会)によると、ドイツ国内ではデータセンターの電力消費量が2022年に180億kWhに達し、この10年間で70%増加したことがわかりました。どの予測モデルでも、データセンターの電力消費量は増加の一途をたどります。
IEA (国際エネルギー機関)は電力レポートの中で、世界のデータセンターの電力消費量が2022年の約460TWh (テラワット時)から、2026年には620〜1,050TWhに増加すると試算しています。620TWhはスウェーデン全体、1,050TWhはドイツ全体のエネルギー需要にほぼ相当します。
こうした電力消費量の増加に伴って、CO2フットプリントも増加します。たとえば、『ハンデルスブラット』紙のレポートによると、Microsoft社のCO2排出量は昨年と比べて約29%増加しています。その主な要因は、AIに対応した新しいデータセンターにあります。
Schneider Electric社は、AIワークロードによるエネルギー消費量は世界的に増加しており、2028年までにAIの電力消費量は現在の4倍以上の約19GWに達すると予測しています。このエネルギー需要を満たすには、原子力発電所を約14基増設する必要がある計算になります。
こうした状況を受けて、EUは企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を発効し、2024年1月以降、データセンターのサステナビリティ情報の開示を義務化しました。さらにドイツは、データセンターを対象とした新たな規制としてエネルギー効率化法(EnEfG)を制定し、電力使用効率(PUE)の段階的な低減を求めています。データセンター事業者にとってCO2フットプリントの削減は急務です。最適化と効率向上を促進するには、その目的に特化したデータ主導型のソリューションが必要です。
事業者は今すぐ行動しなければ、新しい法規制に違反するリスクがあります。
Jones Lang Lasalle社グローバルストラテジー&イノベーション、Colm Shorten氏
Splunk Sustainability Toolkitは、Splunkのお客様が無料で利用できるAppです。組織のカーボンフットプリントに関する有益なインサイトを提供することで、カーボンニュートラルの目標達成に向けた施策を支援します。経営幹部用ダッシュボードでは、クラウド/マルチクラウド、ハイブリッド、オンプレミス環境全体を可視化して、状況を包括的に把握できます。CO2の排出が集中する「ホットスポット」をリアルタイムで分析し、データに基づいて適切なアクションを実行できます。
Splunk Sustainability ToolkitはITサステナビリティに特化しており、特にデータセンターの分析と効率化に重点を置いています。
以下では、Splunk Sustainability Toolkitを使ってデータセンターでのAIサステナビリティに関するCO2の課題に対処するための3つの方法をご紹介します。
「タイミング」と「場所」を最適化するための基盤となるのが、Carbon Intensity APIとのすぐに使えるインテグレーションとデータ正規化です。地域固有のデータは、Splunk Add-On for Electricity Carbon Intensityを利用して簡単にオンボードできます。
Jones Lang Lasalle社のレポート『Data Centers 2024 Global Outlook』によると、生成AIの電力要件は、モデルの作成、チューニング、推論の3つの段階によって大きく異なります。その中でトレーニングとチューニングのワークロードは、通常、レイテンシーの影響を受けません。そのため、AIに対応したデータセンターのオペレーターは、これらの処理負荷の高いワークロードを実行する際に、実行場所をより柔軟に選択できます。炭素強度の低い場所で実行すれば、CO2フットプリントの削減につながります。
Uptime Institute社の2022年の分析によると、ハードウェアの更新サイクルは、2015年の3年から2022年には最大5年と、短くなるよりもむしろ長くなっています。それが、過去数年間で電力使用効率(PUE)が伸び悩んでいる理由の1つです(2022年の平均PUEは1.55)。
しかし、AIがもたらした劇的な変化、エネルギーコストの上昇と監視の強化、新しい規制の施行とサステナビリティ情報の開示の義務化により、データセンターのオペレーターは、より高性能でエネルギー効率の良いインフラの導入を求められています。実際、Forrester Consulting社のグローバル調査では、回答者の64%が、更新サイクルが2年であれば「サステナビリティの取り組みを改善できる」と期待しています。データセンター全体でハードウェアの数を減らすことができれば、貴重なラックスペースを節約できるだけでなく、CO2フットプリントとエネルギーコストを削減することもできます。
ハードウェアの更新に関する分析は、Splunk Sustainability Toolkitでも、価値ある機能として今後対応する予定です。
ドイツにおける2022年のデータセンターの年間エネルギーコストは実に1,100万ユーロにのぼりました。
出典:Bitkom、平均電力消費量:5MW、年間電力消費量:43,800MWh、電気料金:24.6セント/kWh
上記の「タイミング」、「場所」、「ハードウェアコンポーネント」を最適化して電力消費量をわずか数%ポイント削減するだけで、高騰するエネルギー料金を大幅に削減できます。これは、再生可能エネルギー資源由来のグリーンな電力を100%調達しているデータセンター事業者や、グリーンカーボンクレジットを購入して排出量を相殺しているデータセンター事業者にも当てはまります。グリーンエネルギーの場合も、電力の削減はコストの削減につながります。
Splunk Sustainability Toolkitでは、アプリケーションレベルやデータセンターの特定のハードウェアコンポーネントレベルで、非常に細かいCO2分析が可能です。下の図のダッシュボードはその一例です。
パフォーマンス向上に役立つ機能が用意され、カスタマイズも簡単に行えます。
エネルギーとCO2のホットスポットを細かく理解することで、データに基づいて意思決定を行い、改善目標を立てて、コスト削減につなげることができます。
Splunk独自の強みの1つは、ほぼあらゆるソース、タイプ、時間軸のデータをリアルタイムで分析できることです。さまざまなソフトウェアアプリケーション、ハードウェアコンポーネント、場所、ビジネスユニット、国を対象に、異なるソースからデータを取り込んで相関付けることで、環境全体を包括的に可視化し、透明性を確保できます。そこから、データセンターのCO2フットプリントに関する深いインサイトを獲得できます。このように、リアルタイムのデータセットを活用して、サステナビリティ目標を達成するための効果的な意思決定ができます。
サステナビリティの取り組みは、必須ではないがやった方がいいESGイニシアチブから、数値とデータに基づく「必須課題」へと成熟し、多くの場合、組織のカーボン削減目標や戦略的なビジネス目標に直結します。データセンターでのAIのエネルギー消費とCO2フットプリントを監視、管理、削減するには、リアルタイムデータの可視化と分析が欠かせません。Splunk Sustainability Toolkitを活用すれば、データセンターの領域でAIとサステナビリティを効果的に両立することができます。
このブログはこちらの英語ブログの翻訳、前園 曙宏によるレビューです。
Splunkプラットフォームは、データを行動へとつなげる際に立ちはだかる障壁を取り除いて、オブザーバビリティチーム、IT運用チーム、セキュリティチームの能力を引き出し、組織のセキュリティ、レジリエンス(回復力)、イノベーションを強化します。
Splunkは、2003年に設立され、世界の21の地域で事業を展開し、7,500人以上の従業員が働くグローバル企業です。取得した特許数は1,020を超え、あらゆる環境間でデータを共有できるオープンで拡張性の高いプラットフォームを提供しています。Splunkプラットフォームを使用すれば、組織内のすべてのサービス間通信やビジネスプロセスをエンドツーエンドで可視化し、コンテキストに基づいて状況を把握できます。Splunkなら、強力なデータ基盤の構築が可能です。