公開日:2022年11月28日
バリューストリーム管理(VSM)とは、組織のソフトウェアデリバリー活動によって生成されるビジネス価値のフローを測定して改善するプラクティスです。ソフトウェアデリバリーのライフサイクルをエンドツーエンドで監視することで、価値を生むプロセスをより的確に把握し、無駄な作業を排除して、プロセスの流れを最適化できます。その結果、顧客の価値に直接つながらないアクティビティに時間を取られることなく、価値に直接つながるアクティビティに集中できます。
業界内での競争が激しくなるにつれて、企業は優位性を得る手段としてソフトウェアに注目するようになりました。そして、組織のデジタルトランスフォーメーション戦略の一環として、ソフトウェアだけでなくその開発プロセスも含めて価値につなげる方法を模索し始めています。しかし、ソフトウェア開発は常に進化し続ける一方で、ITの新しいアプローチや機能を全社的に導入するのには時間がかかります。バリューストリーム管理は、ソフトウェアデリバリープロセスのあらゆる側面を記録して測定するための体系的なアプローチを提供します。製品、アプリケーション、サービスのフローを可視化することで、ソフトウェアデリバリーの問題の解決と継続的な改善を可能にします。
以下のセクションでは、ソフトウェアデリバリーやデリバリーパイプラインにおけるバリューストリームの重要性と、バリューストリームの現状を評価する方法について説明します。また、バリューストリーム管理ツール、組織でのバリューストリーム管理の導入方法、目標とするビジネス成果の達成方法もご紹介します。
バリューストリームの目的は、製品やサービスの価値実現までの時間または市場投入までの時間を短縮することです。バリューストリームという組織共通の観点を持つことにより、システム全体で価値のフローを追跡し、測定して最適化できます。これは、組織が提供する価値とその改善方法の明確化にもつながります。
バリューストリームの考え方を最初に取り入れた企業の1つがトヨタ自動車社で、当初の目的は、受注から最終納品までのすべてのプロセスとステップを明確に把握することでした。それを基に、製造業務を幅広い視点で捉えて、不要で無駄を生む作業を排除すると同時に、製造プロセスの整備と改善を行いました。
最近では、DevOps活動で、ソフトウェアデリバリーと製品開発の改善方法としてバリューストリームのプラクティスが導入されています。バリューストリーム管理では、ソフトウェアデリバリーモデルの中心に顧客を置き、顧客の要求から顧客への提供までの業務の流れを監視して継続的に改善します。
バリューストリームは大きく2つに分けられます。
バリューストリーム管理では、ソフトウェアデリバリープロセスの各ステップを調べて、バリューストリームの現状を評価する必要があります。これには以下のステップが含まれます。
バリューストリームマッピングは、バリューストリーム管理をリアルタイムで実行できるようにします。
各ステップについて、その関係者が顧客への価値提供を妨げるワークフローのボトルネック、サイロ、その他の障害を特定します。
バリューストリームマッピングは、このプロセスをリアルタイムで実行できるようにします。バリューストリームマップは、特定の製品またはサービスを提供するために必要な各ステップを線でつないだ図です。このように図式化することで、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)の各ステップの中で、遅延、引き継ぎ、手戻りなどの非効率的な「無駄」によって価値実現が妨げられている箇所を容易に見つけることができます。
バリューストリームマップを作成するときは、組織が成功を測定するために普段使用している指標を使います。ただし、リーンやシックスシグマの方法論では、以下の3つの主要な指標を含めることが推奨されています。
バリューストリーム管理の正式な手順はありませんが、一般的なプロセスは以下のようなものです。
バリューストリームの現状を示すマップを作成する:まずは、ソフトウェアデリバリーの現状を正確に把握することが重要です。バリューストリームマップは、現在のツールチェーンや特定のバリューストリームの現状を可視化するだけでなく、将来のあるべき姿を導き出すためにも役立ちます。マップを作成するときは、以下の点を追加します。
無駄を特定する:現状を示すバリューマップを作成する目的は、顧客への価値提供を妨げる問題を特定し、それを軽減してバリューストリームを改善することです。バリューマップは、プロセス、テクノロジー、チームの中で非効率的な部分を見つけるために役立ちます。
リーン方法論では、8つのタイプの無駄が挙げられています。リーンはもともと製造プロセスに関するアプローチですが、DevOpsにも適用できます。8つの無駄の頭文字をとると「DOWNTIME」になるので覚えやすいでしょう。
このステップでは、すべてのプロセスとツールを客観的に精査し、それぞれについて付加価値を生むか価値創出を妨げるかを判断します。「いつもこうしている」といった固定観念にとらわれると、顧客にとっての価値を向上させる機会を見逃してしまいます。
将来のあるべき姿を示すバリューストリームマップを作成する:現状のバリューストリームであらゆる無駄を洗い出したら、将来のあるべき姿を示すバリューストリームマップを作成します。このマップには、無駄を排除するための改善策を組み込みます。たとえば、特定のステップをシンプルにするために複数のタスクを統合する、手動プロセスを自動化する、デプロイ頻度を増やす、などです。
改善策を考えるときは、付加価値を生むタスクを増やし、そうしたタスクの価値を向上させるにはどうすべきか、付加価値を生まないタスクを減らすか取り除くにはどうすべきか、%C/A指標を向上させるにはどうすべきかを検討します。
適切な改善策は、通常はプロジェクトのバリューストリームによって異なります。大切なのは、プロジェクト固有のニーズを理解し、それを満たすために必要な改善を行うことです。
Lean Enterprise Instituteの定義によると、バリューストリームマネージャーは「特定の製品ファミリーについて、『付加価値』対『非付加価値』の比率を高め、サプライチェーン全体で無駄を排除して、バリューストリームが顧客の要求を満たすかそれを上回るようにする責任を担う人」です。
バリューストリームマネージャーという役割は製造分野で生まれたものですが、基本的な考え方はソフトウェアデリバリーにも適用できます。バリューストリームマネージャーは、各製品またはサービスについて、バリューストリームの現状をエンドツーエンドで示すマップの作成、現状のマップのファクトベースの分析、リーン方式を取り入れて無駄を排除しプロセスの価値を高めるために、近い将来のあるべき姿を示すマップの作成、部門横断的なチームによる改善の実施を監督する責任を担います。
バリューストリームマネージャーの役割は基本的に、価値創出のために組織の活動とリソースを調整することであり、その実現には特定の能力が求められます。Lean Enterprise Instituteによると、それには、バリューストリームを幅広い観点で捉える能力、重要なシステム制約を理解する能力、プロセスに関する重大な問題をすばやく察知する能力が含まれます。また、データドリブンのビジネス戦略やリーン思考に関する深い知識を持っていること、または深い知識を持つリソースが身近にあることも求められます。
フロー指標は、特定の製品のバリューストリームによって提供される価値の大きさと、価値を提供するフロー全体の速度を測定するためのフレームワークです。従来のパフォーマンス指標では特定のプロセスやタスクが対象となるのに対して、フロー指標では1つの事業が成果を生むまでの流れ全体が対象になります。これにより、バリューストリームの中で、顧客への価値提供を妨げる要因がどこにあるかを見つけ出すことができます。
ソフトウェアバリューストリームでは、顧客がお金または時間を費やしてでも手に入れたいと思うものを「価値」とみなします。新機能とバグ修正はその良い例です。ソフトウェアバリューストリームを通じて生成される個々の価値を「フローアイテム」と言います。バリューストリーム内のすべてのリソースが、フローアイテムの生成速度の向上に寄与することが理想です。つまり、各フローアイテムの完成までにかかる時間を短縮する必要があります。バリューストリームを測定するための主なフロー指標は4つあります。
フロー指標を使用することで、バリューストリームマネージャーは、使用するソフトウェアデリバリー手法に関係なく、ソフトウェアデリバリープロセス全体を顧客とビジネスの両方の観点で理解できます。これにより、ソフトウェアデリバリーがビジネス成果にどのように影響しているかを明確に把握できます。
マテリアル/情報フローマッピングは、バリューストリームマッピングの別名です。リーン製造方式で、製品やサービスを顧客に提供するための一連のアクティビティにおけるマテリアルと情報の流れを分析するための手法です。その主な目的は、無駄を特定して排除し、バリューストリームの効率を向上させることです。
マテリアル/情報フローマッピングでは、製品やサービスを提供するための一連のアクティビティにおけるマテリアルと情報の流れを分析します。
ソフトウェアでの一般的な例として、ある企業がバリューストリーム管理の手法を使って、自社の主力アプリケーションのバリューストリームを分析する方法を見てみましょう。デリバリープロセスの各ステップを示すマップを作成したところ、自動化できそうな手動タスクや、統合または効率化できそうな複雑なプロセスがいくつか見つかりました。これらの改善に取り組めば、ストリーム内の作業のフロー速度が上がるはずです。また、%C/Aが低いために手戻りが多く発生していることもわかりました。そこで関係者が、これら非効率的な作業を改善するための解決策を検討し、将来のあるべき姿を示すバリューストリームマップを作成して実践することにしました。これにより、ソフトウェアデリバリーの最適化と、顧客に提供する価値を高めることができます。
バリューストリーム管理にはさまざまなメリットがあります。
さまざまなバリューストリーム管理プラットフォームが提供されています。具体的な機能は製品によって異なりますが、一般的には、異なるソフトウェア開発/デリバリーツールの統合、ソフトウェア開発ライフサイクルのあらゆる側面のマップ作成と可視化、プロセスのエンドツーエンドの表示といった機能を備えています。また、さまざまな関係者に変更を伝えるための機能を提供する製品もあります。
よく使われるバリューストリーム管理プラットフォームには以下のものがあります。
バリューストリーム管理を導入するには、まず、パイロットプロジェクトとして使用するバリューストリームを1つ選び、バリューストリームマネージャーを指名します。バリューストリームマネージャーは、選択したストリーム内の各種プロセスの担当者と協力して、プロセスに関するデータの監視と収集を行います。さらに、そのデータに基づいて、バリューストリームの現状を示すバリューストリームマップを作成します。関係者は、現行のすべてのプロセスを評価して無駄を洗い出し、成功指標の改善策を探ります。ここまでの作業が完了したら、パフォーマンスを最適化した将来のあるべき姿のマップを作成し、対策を実装して、必要な変更をすべての関係者に伝えます。
一般的にバリューストリーム管理のトレーニングでは、バリューストリーム管理の考え方と、そこから最大限のメリットを引き出す方法を教えます。その中で、バリューストリームマップの作成プロセス、つまり、関係チームの招集から、バリューストリーム内のアクティビティに関する情報の収集、マップの記述までのすべての作業について説明します。また、フローのフレームワークやフロー指標の概要と、それらをソフトウェアデリバリーに適用するためのベストプラクティスについて説明することもあります。
ソフトウェアイノベーションがビジネスの重要な差別化要因になっている今日、組織のプロセス内のどこでどのような価値が生成されて顧客に提供されているか、その価値を最適化するために何をすべきかを理解することが不可欠です。バリューストリーム管理を実践すれば、ソフトウェアデリバリーを客観的に評価して、遅延、非効率的なプロセス、その他のボトルネックを取り除いて、顧客に提供する価値を向上させ、その結果として組織に利益をもたらすことができます。
IT/オブザーバビリティに関する予測
驚きに勝るものはありません。すべてを受け止める準備を整えておきましょう。Splunkのエキスパートが予測する、来年の重要なトレンドをご確認ください。
Splunkプラットフォームは、データを行動へとつなげる際に立ちはだかる障壁を取り除いて、オブザーバビリティチーム、IT運用チーム、セキュリティチームの能力を引き出し、組織のセキュリティ、レジリエンス(回復力)、イノベーションを強化します。
Splunkは、2003年に設立され、世界の21の地域で事業を展開し、7,500人以上の従業員が働くグローバル企業です。取得した特許数は850を超え、あらゆる環境間でデータを共有できるオープンで拡張性の高いプラットフォームを提供しています。Splunkプラットフォームを使用すれば、組織内のすべてのサービス間通信やビジネスプロセスをエンドツーエンドで可視化し、コンテキスト(把握したい要素) に基づいて状況を把握できます。Splunkなら、強力なデータ基盤の構築が可能です。
日本支社を2012年2月に開設し、東京の丸の内・大手町、大阪および名古屋にオフィスを構えており、すでに多くの日本企業にもご利用いただいています。
© 2005 - 2024 Splunk LLC 無断複写・転載を禁じます。
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