公開日:2021年11月1日
KPI管理とは、意思決定と戦略的目標の実現のために、組織に関連するKPI (主要業績評価指標)を設定、測定、監視、分析するための戦略的実践のことです。組織はITに関するKPIを使用して、テクノロジー資産が想定どおりに機能しているかどうかを判断できます。KPIを達成できない場合には、ビジネスと顧客に悪影響を及ぼす可能性があります。
KPI管理のプロセスは、関連するKPIを設定することから始まります。たとえば、サブスクリプションでサービスを提供するビデオストリーミング会社が収益の最大化を図るために、ユーザーにより多くのビデオを視聴してもらい、サブスクリプションを継続してもらうよう働きかけることで広告収入を拡大できる、と考えたとします。この場合、収益性を確保するにはテクノロジー資産のパフォーマンスの把握が不可欠であるため、サービス全体の可用性(アップタイム)、サーバーの応答性、エンドユーザーが使用する帯域幅の可用性など、多くのKPIを作成する必要があります。また、こういった数字をリアルタイムに追跡するだけでなく、ユーザーに影響を与える可能性のあるさまざまな負の状況を表すKPIのしきい値を設定します。これらのKPIを経時的に監視することで、IT部門は特定の測定値が基準から外れた場合に注意を払うことができます。
KPIを利用することで、IT組織とビジネス全体の健全性を包括的に把握できます。KPIは、ますます複雑になるIT環境において戦術的問題のトラブルシューティングを行うために不可欠であると同時に、将来の取り組みに関して情報に基づく戦略的意思決定を行うために必要な情報を経営幹部に提供するためにも重要です。
この記事では、ITに関する適切/不適切なKPI、KPIの管理と追跡に役立つベストプラクティス、KPIの導入方法について説明します。
KPIとは、主要業績指標を意味する用語であり、特定のプロセス、システム、または個人のパフォーマンスを測定するためにさまざまなビジネス部門や技術部門で広く使用されています。ITにおけるKPIとは、特にネットワーク(オンプレミスまたはクラウド)上のデバイスやサービスに関するパフォーマンス指標を指します。ただし、成果を上げる企業の多くは、技術的なKPIとビジネスに関するKPIを関連付けます。たとえば、Webサーバーの最大応答時間に関するKPIは、オンライン収益やその他のビジネス目標に関するKPIと連携させることができます。
KPIはメトリクスと混同されがちですが、この2つにはいくつかの明確な違いがあります。メトリクスは、生のパフォーマンス(1秒あたりの入出力処理数、CPU負荷、メモリー使用率)など、ビジネスに関するものの価値を測定するために使用されます。KPIは、これらのメトリクスに意味を与えるものであり、何らかのしきい値とともに使用するのが理想です(たとえば、CPU負荷が80%の場合、リスクが高い数値としてアラートを出すなど)。KPIはサービスレベル契約(SLA)に関連付けることもできます。中でもよく利用されているKPIがサービスの可用性/アップタイムです。組織が99.99%のアップタイムをSLAとして定義している場合、IT部門はそのデータをKPIとして直接計算し、監視する必要があります。
KPIを設定する際は、組織の目標に基づいて具体的に定めながら測定および達成可能なものになるよう意識することが大切です。後ほど触れますが、KPIを設定してもそのメトリクスを適切に測定できなければ、組織の助けになっているとは考えにくく、問題解決に役立つどころか、問題を引き起こす可能性が高いと言えます。
KPIの価値は多くの要因に左右されますが、すべてのKPIにはビジネスに役立つ重要な特徴があります。優れたKPIの重要な特徴の1つは具体性であり、「良い」、「悪い」、「重大」など単なる定性的評価では表せないという点です。優れたKPIには具体的に定量化された値(「CPU使用率85%」など)があり、それが定性的評価(この場合は「重大」)に関連付けられます。
KPIが表す具体的な値が何であれ、ほとんどの場合、KPIを経時的に測定し、組織内のすべての関係者が理解できる形で共有する必要があります。このようにしてKPIを監視することで、問題の発生を把握し、その問題に対して是正措置を講じることができます。
先ほど説明したとおり、KPIを設定する際は、組織の目標に基づいて具体的に定めながら測定および達成可能なものにする必要があります。適切にKPIを設定できれば、インサイトを引き出して、直感的にすばやく理解し、長期的に測定することでビジネスプロセスに付加価値をもたらすことができます。KPIの進捗が全く見られない場合、メトリクスの変動が反映されていないため、真の価値はありません。長期的に監視できないデータも同様です。KPIの例として、ネットワークが稼動しているか停止しているかを示すバイナリデータポイントがありますが、情報としては有用であっても、KPIとしては効果的とは言えません。一方、「1日のネットワーク稼動時間」はパーセンテージで確認でき、この情報を監視することで傾向を追えるため、経営幹部にとっては重宝します。
KPIを適切に設定するには、組織の目標との関連性を明らかにしたり、何らかの品質評価を紐付けたりする必要があります。「CPU使用率70%」は、「CPU使用率:高」と同様に、それだけではあまり意味がありません。しかし、詳細なパフォーマンスメトリクスと定性分析の2つの情報を結び付け、「CPU使用率70%、しきい値の上限」とすれば、有意なものになります。「CPU使用率70%、しきい値の上限を超えた状態が45分間継続」であれば、KPIの価値はさらに高まります。
KPIを簡単に変更できる形で設定すると、問題が生じることがよくあります。たとえば、「ヘルプデスクへのリクエスト数」というKPIは、ITサービス部門の稼動を確認するための適切な設定のように見えますが、この種のメトリクスは、特に報酬や役職と関連付けられている場合、変更されやすい側面があります。より優れたKPIの例には、チケットを解決するまでの平均時間、最初に応答するまでの平均時間、サービスデスク運用のネットプロモータースコアなどがあります。
ITに関する最も一般的なKPIは、次の5つです(これらはかなり大まかなカテゴリであり、日常業務ではより具体的なサブKPIが使われることに注意してください)。
- 可用性:サービスまたはシステムを利用できる時間の割合で、ハードウェア、アプリケーション、クラウドベースのサービス、またはネットワーク全体に適用できます。非常に多くのサービスが可用性に基づいたSLAに関連付けられているため、このカテゴリのKPIを作成して監視することはとても重要です。
- 信頼性:アップタイムに関連する指標です。ただし、デバイスやサービスが仕様どおりに機能している時間を計算するものではありません。具体的には、ハードドライブのクラッシュやアプリケーションエラーなど、障害が発生したシステムを修復または復元する際のITパフォーマンス指標です。
- スループット:ネットワークパイプラインの帯域幅や、たとえばサーバーやアプリケーションが処理を完了した1秒あたりのトランザクションなどを指す単純なメトリクスです。主にサービス品質、システム効率、ユーザーや顧客の満足度に関連していることから、重要なKPIになり得ます。
- 遅延:スループットの対になるもので、操作から完了まで、あるいはデータを要求してから受信するまでのタイムラグを追跡します。遅延の問題は、顧客維持率やユーザーエクスペリエンスなどの側面に影響を及ぼす可能性があるだけでなく、データの忠実度の問題を引き起こすこともあります。
- セキュリティ:セキュリティメトリクスは、さまざまなKPIにおいて重要な役割を果たすようになっています。デジタル化が進むビジネスを標的に、ランサムウェア、マルウェア、およびその他のエクスプロイトなどのサイバーセキュリティ脅威が広がりを見せているためです。セキュリティKPIでは特に、侵入の試み、ポリシー違反、さまざまな脆弱性などの測定値が使われます。
最も一般的なKPIには、可用性、信頼性、スループット、遅延、セキュリティなどがあります
KPI管理によって、KPIが適切に機能しているかどうかを把握できます。KPI管理とは、KPIを経時的に監視することだけではありません。KPI管理を活用することで、組織はさまざまな質問に答えることができます。たとえば、「適切なKPIを使用しているか」、「KPIはビジネス戦略や成果と結び付いているか」、「KPIのしきい値は適切に設定されているか」などです。
KPI管理は、KPIが期待どおりに機能しているか、注意を要する問題が発生していないかを見極めるのに役立つという点で重要です。効果的なKPIを管理することで、パフォーマンス管理などの定量化できる測定値に重点を置いて、ビジネスが健全であるかどうかを把握できます。これは特に、パフォーマンスが長期にわたって徐々に低下している場合に有効です。KPI管理は、こういった問題を特定し、ビジネスを健全な状態に戻すために運用を調整するための手立てとなります。
KPI管理は、必ずしも完璧なプロセスではありません。特に一般的な問題や欠点には以下のものがあります。
- テクノロジーKPIとビジネスKPIの関連性の欠如:KPIが戦略やビジネスに関連付けられていなければ実用性に欠けるどころか、逆効果になることもあります。組織の目標値を示す適切なKPIではなく的外れのKPIが重視されていればなおさらです。
- 追跡するKPIが多すぎる:KPI管理を始めたばかりの企業は、生成されるすべてのデータを追跡しようとしてしまいがちです。管理者は常に移動し続ける何百ものデータポイントを監視しようとするため、すぐにデータによる負荷が高くなります。
- 不適切なKPIしきい値を設定する:CPU使用率90%は高すぎるでしょうか。重大なアラートのしきい値は80%にすべきでしょうか。期待値を適切に管理し、不測の事態を回避するために、しきい値は慎重に設定する必要があります。
- KPIを更新しない:企業のほかの業務と同様に、KPIには常に注意を払い、ビジネス、顧客のニーズ、期待値の変化に合わせて更新する必要があります。
- KPIに基づいて行動しない:最後に、先ほど述べたとおり、優れたKPIは優れたビジネス上の意思決定をもたらします。KPIは、ビジネスの戦略的方向性を導くために積極的に活用されなければ、無意味なものになるでしょう。
さまざまな関係者の認識が一致していないと、KPI管理は難航する場合があります。細心の注意を払ってプロセスを促進しなければ、KPI管理はうまくいかず、逆効果になる可能性が高くなります。以下に、KPI管理を促進して投資利益率(ROI)を最大化するためのヒントをいくつかご紹介します。
- ビジネスとテクノロジーの関係者を最初から関与させる:適切な組織目標を設定し、財務KPIを戦術的なテクノロジー測定値や関連するビジネス目標に結び付けるには、この2つのグループの協力が必要です。
- 合理的で達成可能なKPIを設定する:経営幹部がKPIを設定する際、システムのアップタイム100%を義務付けるなど、IT部門に「完璧であること」を求めようとすることがあります。しかし、こういった要求は反感や衝突を生むだけでなく、達成も不可能なことがほとんどです。KPIに関する現実的な期待値を設定して管理することは、より大きな組織目標を達成するために重要です。
- KPIをできるだけシンプルにする:優れたKPIとは、組織内のすべての関係者が容易に理解できるものです。難しい専門用語は避け、使いやすいダッシュボードやスプレッドシート、色分けや説明文などのガイドを使うことで、戦略を立てるにあたりわかりやすいKPIを作成します。
- KPI管理をプランニングサイクルの一部として定期的に実施する:KPIパフォーマンスについて定期的に議論し、アラートや異常値があればすべての関係者に注意喚起します。KPIが適切であるかを定期的に評価し、必要に応じて更新します。
ダッシュボードと可視化は、組織内のすべての関係者がKPIを理解するのに役立ちます
KPI管理を最大限に活用するためのベストプラクティスをいくつかご紹介します。
- KPIとビジネス目標を一致させる:先ほど説明したとおり、KPIを適切に設定するには、収益拡大などのより広範なビジネス目標と連動させる必要があります。ビジネスのニーズや戦略が変化すれば、KPIもそれに合わせて調整します。
- KPIを組織内で広く共有する:KPI管理ダッシュボードに関係者がアクセスできるようにし、関連するレポートを組織全体で頻繁に共有します。
- 競合他社と比較してKPIをベンチマークする:多くのKPI管理ツールには、独自の内部パフォーマンスを測定するために使用できる業界レベルのベンチマークが含まれています。
- 新しいテクノロジーを活用してKPIパフォーマンスを改善する:機械学習やRPA (ロボティックプロセスオートメーション)などのツールは、人がすぐに認識できないパターンを見つけてKPIを改善するのに役立ちます。
KPI管理プラットフォームは、シンプルなパフォーマンス追跡ツールから複雑なビジネスインテリジェンスシステムまで多岐にわたります。自社にとって最適なツールを選ぶ際には、次のことができるツールを検討しましょう。
- 複数のソースからデータを取り込む:KPIは、複数のデータソースのデータを合成して、リアルタイムに分析しなければならない場合があります。
- ビジネスに合わせてKPIダッシュボードをカスタマイズする:KPI管理のアプローチは組織ごとにさまざまです。優れたKPI管理プラットフォームを利用することで、幅広いカスタマイズが可能になります。
- あらゆるタイプの関係者とプラットフォームツールを簡単に共有する:最適なKPI管理ツールを使用すると、組織内のあらゆる関係者がダッシュボードにアクセスし、レポートを作成し、提示される情報を理解できます。
- 直感的でわかりやすいKPIを作成して提示する:KPIデータは直感的にわかりやすく表示して、ダッシュボードをぱっと見てすぐに把握できる必要があります。たとえば、「異常なし」は緑、早急に対応すべき重大なKPIレベルは赤で表示するなどです。
- ビジネスに合わせてKPIを拡張する:シンプルなツールには、大企業で生成される大量のデータを管理するために必要な拡張機能がない場合があります。検討しているKPI管理ツールが、適切なレベルの拡張性を備えていることを確認してください。
KPI管理は、経験や勘を頼りに行うようなものではなく、事前に十分な検討と計画が必要です。以下に、適切な導入に役立つ戦術をいくつかご紹介します。
- 主要な関係者を集めて最初のKPIを設定する:このグループは定期的に集まってKPI管理レポートを評価し、KPIが適切に設定されているか、新しいKPIを作成するべきか、古いKPIを廃止するべきかといったことを検討する必要があります。
- 少ないKPIから始める:KPI管理のアプローチは組織ごとにさまざまです。優れたKPI管理プラットフォームを利用することで、幅広いカスタマイズが可能になります。
- パフォーマンスが低下したら、すぐにKPIに対処する:KPI管理の鍵は、管理です。KPIが重大なしきい値に達したら、対処して修正する必要があります。誰かがKPIをおろそかにすると、他の関係者も同じことをする可能性が高くなります。
- 定期的にKPIレポートを作成する:KPIレポートは、成果を示し、改善の余地がある場所を明らかにし、ビジネス戦略の方向性を示すために不可欠です。
結論:KPI管理はITとビジネスの両方にメリットをもたらす
多くのビジネスアクティビティと同様に、KPI管理は長期的かつ反復的なプロセスであり、時間の経過とともに微調整を行う必要があります。KPI管理のアプローチを継続的に見直して刷新し、些末な技術的問題に囚われないようにすることが重要です。KPIを本当の意味で役立てるには、ビジネス成果に直接関連付ける必要があります。すべてのグループがKPI管理の恩恵を受けてこそ、組織はその価値を最大限に引き出し、実現できます。
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