公開日:2021年11月1日
ITサービス提供とは、組織またはサービスプロバイダーが、アプリケーション、データストレージ、その他のビジネスリソースを含むITサービスをユーザーが利用できるようにする取り組みを指します。ITサービス提供は、ITサービス管理(ITSM)とは異なり、顧客を対象として、一般的に、SLA(サービスレベル契約)に基づく高いサービスレベルを保証します。ただし、この2つの言葉が同じ意味で使われることもよくあります。また、IT部門内ではこの2つを異なるプロセスとして理解する必要がありますが、適切に統合することで、MTTD (平均検出時間)とMTTR (平均修復時間)の短縮や、ITの問題に関するチケット数の削減を実現し、最終的にITコストの低減につなげることができます。
ITサービス提供では、ITサービスのメリットに対するコストを評価し、その適正化を目指します。IT部門が組織にサービスを提供する場合、または外部のITサービスプロバイダーとサービス契約を結ぶ場合、組織は通常、そのサービスが適切に運用され、同意したSLAで明示されたレベルで提供されるという保証を必要とします。IT部門またはITサービスプロバイダーがSLAを満たせなかった場合は、違約金の支払いや評判低下などの不利益を被ることになります。
この記事では、ITサービス提供の進化、課題、適切な導入方法について説明します。
最新のITサービス提供では、組織のITサービスの健全性を高度に可視化して関連メトリクスを向上させるためのシステムを構築します。オンプレミスサーバーから、ネットワークデバイス、クラウドサービス、オンラインストレージ、仮想化アプリケーションまで、組織のインフラ全体を対象に、IT運用をフルスタックで可視化する必要があります。また、サービスのパフォーマンス、システムの健全性、問題の解決速度を最適化、向上させるには、高度なアプリケーションパフォーマンス監視(APM)やクラウドインフラ監視ソリューションを導入し、機械学習を活用してすべてのイベント、メトリクス、トレース、ログデータを分析する態勢を整え、操作を単一のコンソールから行えるようにすることも重要です。
最新のITサービス提供が目指す目標の1つは、予測に基づくプロアクティブな対応を実現して、サービスを継続的に改善することです。そのためには、KPIを明確化することが大切です。これにより、サービスのパフォーマンス、品質、安定性を維持して、収益、生産性、ユーザー満足度の向上といったビジネス成果につなげることができます。最新のITサービス提供手法と関連KPIを取り入れれば、サービス障害が発生したときに、その影響を組織にすばやく伝えるとともに、問題に効率的に対応できます。
ITサービスとはエンドユーザーの利便性を向上させるための手段であり、ITサービス提供では、高品質なサービスをいかに効果的に供給できるかが重要です。多くの組織は、これらのサービスをITサービスカタログにまとめて、エンドユーザーがどのようなサービスを利用できるかをわかりやすく示しています。
一般的なITサービス提供の例として以下のものが挙げられます。
- 新規ユーザーのアカウント作成(メール、ストレージなど)
- 認証情報の再設定(パスワードのリセットなど)
- 新しいハードウェアの支給(ノートPC、スマートフォンなど)
- エンドユーザー機器の修理(プリンターの紙詰まりなど)
- ユーザーのニーズに応じた新しいソフトウェアやクラウドサービスの導入
- ストレージリソースの追加(オンプレミスとクラウドの両方)
- クラウドコンピューティングサービスの導入
ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービス、ネットワーク全体のメンテナンスや、それらの安定性とパフォーマンスの維持といった日常の技術作業は、サービスカタログには載らないかもしれませんが、ITサービス提供に含まれます。
ITサービス提供には、プリンターやモニターなどのオフィス機器の日常的な修理も含まれます。
ITサービス提供フレームワーク(SDF)は、組織に提供するITサービスの評価、開発、展開、管理、廃止に関する基準と手順をまとめたガイドラインです。基本的に、日常業務からエンドユーザーへのサービス提供まで、IT部門が行うさまざまな作業の方法を規定します。
対象となる具体的な作業には、サービスカタログの定義と管理、サービスデスクやヘルプデスクの日常業務の管理、構成管理サービスの提供、ハードウェア、ソフトウェア、サービスのパフォーマンスとSLAの準拠状況の監視が含まれます。
小規模な組織であれば、ITサービス提供フレームワークは不要かもしれません。しかし、組織の規模が大きくなるにつれて、ITサービスの提供を標準化する必要性が増してきます。さらに、クラウドサービスの利用が増え続ける今日、その選定、導入、セキュリティ確保の責任を担うIT部門にとって、その職務を果たすには、包括的なサービス提供フレームワークの導入がほぼ不可欠になっています。2019年に公開されたあるレポートによると、企業では平均すると1,295の異なるクラウドサービスを利用しているそうです。
有名なITサービス提供フレームワークの1つがITIL (Information Technology Infrastructure Library)です。ITILは、幅広いITアクティビティのプロセスと手順を定義した一連のガイドラインで構成されます。このほか、MOF (Microsoft Operations Framework)、COBIT (Control Objectives for Information and Related Technology)、ビジネスプロセスフレームワーク(eTOM)などのITサービス提供フレームワークもよく使われます。ITIL v3を含むITILについては、ITSMに関するこちらの記事で詳しく説明しています。
継続的なサービス提供戦略には、サービス運用、サービス設計、サービス移行のプロセスが含まれます。
ITサービス提供マネージャーは、すべてのITサービス提供業務を監督する責任を担います。この役割は、IT部門内で異なるポジションの複数の人が分担することもあります。ITサービス提供マネージャーの主な目標は、定められたSLAを満たすか上回ることによってステークホルダーの期待に応えることです。そのためには、パフォーマンスメトリクスやその他の定量的な指標に常に注意を払う必要があります。
ITサービス提供マネージャーは、サービスデスクの運用と管理(ITサービスの継続性管理など)や、サービスカタログの管理(追加または削除する製品やサービスの判定など)の責任も担います。最終的には、IT部門全体の運用を改善するために必要なリソース、ツール、予算割り当てについて幅広い提案を行います。
最新のITサービス提供プロセスを改善するために推奨されるベストプラクティスはたくさんあります。たとえば以下のものがあります。
- ビジネスに関するKPIを定義する:IT、業務管理、ITサービス継続性管理の各担当者が協力して、重要なKPIを特定します(ページの読み込み時間、ネットワークの稼働時間、ヘルプデスクのチケット解決時間、平均修復時間など)。
- KPIを収集および監視するためのシステムを開発する:監視するKPIは、IT部門と経営層の両方がアクセスできるダッシュボードにまとめることをお勧めします。
- KPIを満たすか上回っていることを周知するためのワークフローを構築する:部門全体と部門内の個々の担当者に、求められる成果を達成する責任を意識してもらうことができます。
- 日次のミーティングでKPIを定期的に報告する:経営層への正式な報告書や、その他のステークホルダーに提出する幅広い報告書でもKPIを報告します。最新のITインフラデータも一緒に示すことができれば理想的です。
- KPIが目標に達しない場合は、関係者を集めてミーティングを行い、改善策に関するアイデアを出し合う:運用、サービスサポート、適時性、最適化、OLA (運用レベル契約)の改善策や、ワークフローを効率化する方法を話し合い、必要に応じて、ビジネス成果とカスタマーエクスペリエンスの向上につながる新しいテクノロジーの導入を検討します。エラーや問題の調査では、責任者を責めることはせず、根本原因を突き止めるための手順を確立し、再発防止策を立てます。
- モバイルを活用する:KPI情報は、モバイルデバイスを含め、あらゆるタイプのデバイスでいつでも参照できるようにすることをお勧めします。これにより、リアルタイムデータを重視する文化を育むことができます。
ITサービス提供がうまくいかない要因はさまざまです。特に重要な要因には以下のものがあります。
- 適切なKPIを設定していない:パフォーマンスを把握していなければ、プロセスを最適化することはできません。
- KPIをビジネス成果に結び付けていない:ネットワーク障害がビジネスに及ぼす影響がわからなければ、ネットワークの信頼性を測定しても意味がありません。
- KPIをステークホルダーに伝えていない:KPIデータを収集していても、有効活用できていないことがよくあります。サービス提供を改善するには、組織全体で現状に対する認識を共有する必要があります。
- サービス提供の改善に取り組んでいない:ITサービスのKPIは設定して終わりではなく、KPIを満たせない場合にプロセスを改善していくことが必要です。
- 失敗だけでなく成功にも目を向ける:組織の業務では問題点ばかり気にしがちですが、解決した問題を共有しその取り組みを認めるのも同じくらい重要です。
ITSI (IT Service Intelligence)には、ITサービス提供の品質を確保するために必要なさまざまなツールが用意されています。ビジネスクリティカルなITサービスの監視機能を使えば、WebベースのダッシュボードからSLAをリアルタイムで確認できます。このSLAのリアルタイム監視では、ソフトウェアとハードウェアデバイスの健全性を把握するだけでなく、問題の発生時にアラートを受け取り、根本原因分析によって問題の原因を特定することもできます。また、ITSI全体に組み込まれた機械学習と予測分析は、分析の質を向上させ、問題を未然に防止するために役立ちます。
ITサービス提供とITSMは同じ意味で使われることがよくありますが、その概念は少し異なります。
簡単に言えば、ITSMは、ITサービスを提供し、その名のとおり「管理」するための仕組みを指します。サービスデスクの運用からリクエスト処理システムまで、ITサービスの選定、設計、運用に関する幅広い業務を対象とします。ITILなどのフレームワークに基づいてベストプラクティスを導入することで、これらのサービスに関する組織戦略の推進をサポートします。ITSMの最終目標は、サービスリクエストの管理において重要性が増している自動化ツールを使って、業務を効率化し、対応を迅速化することにより、IT担当者の生産性と組織内のユーザーの満足度を向上させることです。
一方、ITサービス提供は基本的に、顧客を念頭に置き、提供するサービスの品質を重視します。また、ITSMに比べて定量的な性質があります。KPIを監視して、関連SLAを守ることが最終目標であり、その点でITSMの一部と考えることができます。
ITサービス提供の業務を効率化するツールにはさまざまなものがあります。これらのツールの多くはITSMでも使われ、両方のニーズに対応しています。よく使われるツールには以下のものがあります。
- ヘルプデスク/サービスデスクツール:エンドユーザーからのサービスリクエストを管理するための基本機能を提供します。エンドユーザーのサポート、新しい機器のリクエスト対応、チケット管理、必要に応じたサービスリクエストのエスカレーションなどの日常業務を支援します。インシデントのMTTR (平均解決時間)、初期対応までの平均時間、1チケットあたりのコストなどのKPI測定機能が内蔵されていることもよくあります。
- サービスカタログ管理ツール:エンドユーザーが利用できるソフトウェアやサービスのカタログを管理し、カタログ内の各サービスの全体的な利用状況を把握できます。
- ナレッジベース管理ツール:ドキュメントやFAQなど、組織内の知識を整理して、簡単に検索できるようにします。ナレッジベースの構築は、ユーザーがIT部門に頼らずに問題を自力でスムーズに解決できるようにするために役立ちます。
- 構成管理ツール:組織内のさまざまなコンピューターシステムを一貫した方法で安全に構成するために使用します。エンドユーザーが使う機器を分析して、アップデートやパッチを適用するタイミングを判断することもできます。また、多くのツールはシステムの自動アップデート機能を備えています。
- ワークフロー管理ツール:ワークフロー管理は、ビジネスシステムを効率化するためのプロセスです。ワークフロー管理ツールは、データやドキュメントを組織内外に適切に転送して、定められた手順で作業を進め、各ステップで承認が得られるようにするための機能を提供します。
- パフォーマンス監視ツール:ハードウェア、ソフトウェア、外部サービスのパフォーマンスを監視します。適切なKPIを設定し、幅広いSLAを監視するために重要な役割を果たします。
- ログ管理ツール:組織内のさまざまなデバイスから収集された複雑で大量のログを分析して、組織のアーキテクチャ全体の運用を可視化するために役立ちます。ツールがなければ見落としてしまう可能性のある重大なインサイトを得られるため、ITサービス提供の改善に欠かせないツールです。
専用のソフトウェアやクラウドサービスに安易に飛びついてはいけません。まずは、ビジネス成果を念頭に置いて明確な戦略プランを立てることが重要です。
最初のステップは、必要なKPIを設定することです。ビジネスにとって何が重要かをよく考えましょう。たとえば、オンラインショップを展開している場合は、Webサイトの応答速度、稼働時間、信頼性が重要なKPIの候補になります。製造企業の場合は、機械のテレメトリデータをいかにすばやく収集、処理できるかが大切な指標の1つでしょう。このように、組織にとって重要なKPIとそのしきい値を明確にします。
KPIを設定したら、その監視に必要なデータを収集するためのシステムを構築します。その際は上記のITサービス提供ツールを利用できますが、さまざまなアプリケーションやサービスを入念に調査、テストして、組織に最適なツールを選ぶことが大切です。システムが整ったら、すべてのステークホルダーが自由にアクセスしてすべてのKPIをリアルタイムで確認できるダッシュボードを作成します。KPIは経営層に頻繁に報告して、定期的に見直すことが重要です。
最後に、最も難しいのが、KPIデータに基づく対応です。KPIを満たせない場合は、その問題を是正するためのアクションプランを立てる必要があります。問題の責任者は誰か、状況を改善するためにワークフローにどのような変更が必要か、ボトルネックなどの問題を解決するためにどのようなテクノロジーが役立つか、などを話し合います。調査と継続的な改善は、組織のビジネスニーズに対応する最適なITサービス提供プログラムを開発するために重要なプロセスです。
ITサービスのパフォーマンス監視は第一歩にすぎません。KPIを活用し、IT運用が収益、生産性、顧客満足度に及ぼす影響を可視化して、ITサービスをビジネス成果につなげることが肝心です。ITサービス提供プログラムを通じてITメトリクスとビジネス目標を整合させることにより、テクノロジー活用を進める組織に、重要なビジネス成果を向上させるための手段を提供できます。
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