公開日:2022年12月8日
顧客データ管理(CDM)とは、特にマーケティングの目的で、組織が顧客に関するデータを収集、管理、保存、利用するために採用するプロセス、戦略、ツール、ポリシーを包含した枠組みを指します。CDMが注目されるようになった背景には、データの増加や顧客データの重要性の高まりだけでなく、IT運用担当者の間で、データを効果的に管理するために適切なツール、手法、内部プロセスが確立されていないという懸念が増大していることがあります。Dun & Bradstreet社が2021年に公開したレポートでは、調査対象企業の約半数が、データを最大限に活用するために必要なテクノロジーがないと回答しています。
市場調査会社のVanson Bourne社が実施した調査では、IT部門の業務時間の41%がデータインフラの導入、保守、管理に費やされているという結果もあります。さらに、調査対象企業の70%が、今後1年間でIT予算が削減される見込みだと回答しています。このようにIT部門は、データ管理に費やす時間が増える一方で、予算は減らされ、他の業務も進めなければならないという苦しい状況に立たされています。
CDMは、顧客データを管理するための包括的なアプローチを確立することでこの問題に対処することを目指しています。CDMの最終目標は、既存の顧客データを最大限に活用して、各顧客の詳細なプロファイルを作成し、カスタマーエクスペリエンスを改善して、エンゲージメントの向上につなげることです。新規の顧客について入手可能なすべてのデータを活用すれば、その顧客に適したメッセージを最適なタイミングで届けられるようになります。
この記事では、CDMの概要、仕組み、CDMを実現するためのツールについて説明します。また、CDMのベストプラクティスと適切な顧客データ戦略の立て方もご紹介します。
CDMの最終目標は、IT人材を増やすことなく顧客データを最大限に活用することです。
組織が顧客との直接的な接点やサードパーティソースから収集し保存する、顧客に関するあらゆる情報が顧客データに該当します。種類と定義はさまざまですが、一般的な顧客データには以下のものがあります。
インタラクションデータまたはエンゲージメントデータは、顧客とのやり取りに関する記録です。このデータは通常、組織のWebサイトを通じた接点から収集されます。
行動データは、顧客と組織のやり取りに関する記録である点でインタラクションデータと似ていますが、顧客が製品やサービスをどのように利用したかを追跡するためのより具体的な情報です。行動データには以下のものがあります。
態度データは、顧客が自社と自社のブランド、製品、サービス、カスタマーエクスペリエンスについてどのように感じているかを評価するための主観的なデータです。態度データには以下のものがあります。
インテントデータは、インタラクションまたはエンゲージメントデータと似ていますが、組織のWebサイトだけでなく、顧客のオンラインでのさまざまなアクティビティを集約した情報です。このデータに基づいて、特定の製品やサービスの購入意思を判断できます。インテントデータには以下のものがあります。
顧客データを活用すれば、特定の顧客の興味に合わせて、多くの場合はバイネーム(名指し)で、よりきめ細かくパーソナライズしたターゲットマーケティングを実現できます。McKinsey社によると、こうしたパーソナライズは不可欠になりつつあり、調査では回答者の80%が小売店にパーソナライズを期待しています。
顧客データを収集することは、顧客の獲得にも役立ちます。有望な見込み客は優良顧客とよく似ていることが多いという仮説に基づいて、既存顧客のデータを分析し、その特性を見込み客に当てはめることで、コンバージョン率を向上できます。
顧客データは最終的に、ABM (アカウントベースドマーケティング)の中核を担います。ABMは、B2B (企業間取引)マーケティングのアプローチの1つで、高度なターゲティングとパーソナライズを用いて個々の顧客にアウトリーチすることにより、新しい取引先の開拓や既存顧客へのアップセル/クロスセルの機会獲得を目指す手法です。
ただし、データの収集、保存、利用においては、法規制への準拠が大きな問題になります。この点については後のセクションで詳しく説明します。
顧客データプラットフォーム(CDP)は、幅広いソースからのデータの収集、保存、活用機能を提供するソフトウェアで、各顧客に関するすべての関連情報を統合した単一の顧客データベースとして使用できます。CDPが開発された背景には、多くの大規模組織で、顧客データが複数の場所に分散し、それぞれ違う部署の管理下に置かれ、管理がおろそかになる場合もあるため、古いデータが混入して整合性が取れないという問題がありました。CDPは、顧客へのアウトリーチにおける最新のターゲティングアプローチのニーズに対応します。
CDPでは、営業やマーケティングで使用している他のソフトウェアプラットフォームにデータを提供できます。たとえば、CRM (顧客関係管理)やセールス/マーケティングオートメーションプログラム(Pardot、Marketo、Eloquaなど)が対象になります。CDPを使用すれば、顧客とのやり取りの結果を追跡し、顧客に関する既知のデータに基づいて高度にパーソナライズしたアウトリーチを実現できます。役職や組織のWebサイトへのアクセス頻度など、顧客に関するデータが増えるにつれ、その組み合わせによって精度を向上できます。
顧客データプラットフォーム(CDP)とデータ管理プラットフォーム(DMP)は、目的は似ているかもしれませんが、用途が根本的に異なります。CDPは基本的にマーケティングツールであり、データを収集、保存、活用して、個々の顧客に関する詳細なプロファイルを作成するために使用します。一方、DMPは、顧客と見込み客の両方のデータを収集、整理、活用して、広告プログラムに広く利用できる匿名の顧客プロファイルを作成するために使用します。
DMPで作成する匿名の顧客プロファイルは、広告プラットフォームでターゲティングやパーソナライズの精度を向上させるために利用できます。一方、CDPで作成、管理する個々の顧客の詳細なプロフィールは、各顧客に向けたマーケティングメッセージのパーソナライズに利用できます。CDPのデータは、CRM (顧客関係管理)やマーケティングオートメーションプラットフォームなど、幅広いプラットフォームと共有できます。
ほかにも、DMPがリード(見込み客)の情報源を提供するのに対して、CDPは見込み客へのアウトリーチをパーソナライズして接触するために役立つという違いもあります。
顧客データ管理には、組織の顧客情報が正確かつ最新に保たれ、アクセスが容易になるという大きなメリットがあります。そのメリットはさまざまな面で効果を発揮します。顧客データ管理のユースケースには以下のものがあります。
今日、データプライバシーは企業にとって重要な問題です。個人データの取り扱いに関心を持つ消費者が増え、規制の強化を求める声が高まるとともに、EUの一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、データ保護規制が2018年に次々と施行/制定され、企業や組織が準拠すべきデータプライバシー基準やデータセキュリティ基準はかつてないほど厳しくなっています。組織内で顧客データをどのように扱っているか、また、顧客のプライバシーや適用法を侵すことなく利用できているかどうかを把握するには、CDMとデータ保持に関する効果的なプロセスを確立することが不可欠です。
CDMプログラムを適切に運用すれば、顧客データをどこから収集し、その収集が関連規制の下で合法的に行われたかどうかをリアルタイムで確認できます。また、収集したデータの変更や補強内容、組織内での使用方法も把握できます。
規制要件への準拠に関するCDMの大きな強みとして、データの利用に同意した顧客を把握し、明示的な同意を得られなかった場合はその顧客データの利用方法が顧客と企業の関係において正当化されるものであるかどうかを判断できる点も挙げられます。
データの急増:データが爆発的に増加して、IT部門の現在の予算や人数では対応しきれなくなることは珍しくありません。
データの量、生成速度、種類の増加:組織はさまざまなデータソースとデータタイプを管理する必要があります。組織のCDMプログラムを運用するチームにとって、それらすべてを適切に管理するのは非常に困難です。
異なるソースから取得したデータの競合:自社の顧客接点からサードパーティのデータアグリゲーターやデータベンダーまで、さまざまなソースからデータを収集する場合、顧客データベース内で連絡先情報の競合が起こる可能性が高まります(顧客が転職したが前の職場の情報が残っているなど)。
データの品質低下:データベース内のデータが破損していたり、間違って分類されていたり、古かったりすると、マーケティングで使用する適切な連絡先情報を提供するのが難しくなります。この問題を緩和するには、CDMプログラムの一環として、データを検証してデータ品質を維持する必要があります。
データのサイロ化:大規模組織になると、各部署が独自に顧客情報データベースやアウトリーチプログラムを構築、運用することがよくあります。このようにデータがサイロ化すると、複数の場所に同じタイプの異なるデータが並存する可能性があり、CDMの大きな課題になります。
CDMプログラムの基盤となるツールは、顧客データプラットフォーム(CDP)と呼ばれるデータプラットフォームです。CDPはそもそもCDMのニーズに対応するために開発されたツールで、すべての顧客データを保存、補強、活用するための基幹システムの役割を果たします。さまざまなベンダーがCDPを提供し、ダッシュボードや分析機能をはじめ、セールスチームやマーケティングチームが販売促進キャンペーンを展開するために役立つ幅広い機能を搭載しています。
CDPはマーケティングオートメーションプラットフォーム(HubSpot、Marketo、Pardotなど)と連携して使われることもよくあります。これにより、ターゲットマーケティングのアウトリーチプログラムに使用する適切なデータを用意できます。組織のマーケティングテクノロジースタックの構成によっては、CDPと顧客関係管理(CRM)ツールを連携させることもできます。CDPとCRM間で顧客情報をやり取りすることで、情報を最新の状態に保ち、セールス担当者やカスタマーサポートに正確な連絡先情報を提供できます。
CDM戦略では、保存対象となるデータ、データの収集、利用、処理方法、データにアクセスできる人、決められたビジネス目標を達成するうえでCDM戦略が果たす役割を明確にする必要があります。 データガバナンスは、特に収集対象のデータとその収集方法の判断において、CDM戦略の要になります。包括的で現状に即したデータガバナンス戦略計画を立てることが重要です。特に、準拠すべき規制が適用される場合は慎重に計画する必要があります。
優れたCDM戦略を策定するには以下の情報を含めます。
CDMを導入するには、組織のCDM戦略、戦略の実行担当者、使用するツール、達成したいビジネス目標を明確にする必要があります。必要なステップは、大規模なテクノロジーを導入するための一般的なステップとほぼ同じです。
CDM戦略を策定する:ビジネス目標の達成を後押しするCDMプログラムを企画し、その効果を測定するには、十分な検討を重ねて的確なCDM戦略を立てることが不可欠です。
CDMチームを結成する:顧客データの収集、保存、編集、活用、継続的な更新の責任を持つ担当者を各部署から選出します。これにより、チームメンバーの意見を聞くことで、CDMプログラムにすべての部署のニーズを反映できます。
ビジネス目標を決める:CDMプログラム内のデータ活用に関する目標だけでなく、収益性など、組織レベルで達成したい目標も明確にします。組織の全員が賛同するビジネス目標を立てれば、CDMプログラムに対する組織のサポートを得やすくなります。
適切なテクノロジーを選定する:さまざまなベンダーがCDPや顧客データ管理システムを提供しています。各ソリューションを十分に評価し、組織のニーズに対応するとともに既存のマーケティングテクノロジースタックと連携できる製品を選びましょう。
パイロットプロジェクトを実施する:組織レベルでCDMプログラムに何が期待されているかを明確にします。CDMチームのメンバーに意見を聞いて、その期待に添ったパイロットプログラムを開発、実行し、組織内で成果を共有します。
CDMの導入に必要なステップは、大規模なテクノロジーを導入するための一般的なステップとほぼ同じです。
カスタマーエンゲージメントの獲得がこれまで以上に難しくなる中で、パーソナライズはカスタマーエクスペリエンス全体の向上に欠かせない要素になっています。顧客の関心をつなぎとめるには、顧客の好みを踏まえた適切な方法でタイムリーにアウトリーチする必要があります。基本インフラの管理で数々の課題に直面し、人材不足や予算削減といった困難も抱えるIT部門は、顧客データ管理の整備にまで手が回らないのが現状です。そこで、役立つのがCDMです。CDMは、マーケティングテクノロジースタックの重要コンポーネントとして組織のニーズを満たすだけでなく、将来を見据えたさまざまなメリットを提供します。
IT/オブザーバビリティに関する予測
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日本支社を2012年2月に開設し、東京の丸の内・大手町、大阪および名古屋にオフィスを構えており、すでに多くの日本企業にもご利用いただいています。
© 2005 - 2024 Splunk LLC 無断複写・転載を禁じます。
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