2024年はテクノロジーの変革が進み、画期的な進歩と先例のない課題によってビジネスの環境にも大きな変化をもたらしました。生成AIが未知の可能性を次々と切り開き、サイバーセキュリティの脅威が新たな段階に突入しています。世界のイノベーションハブとして急成長を遂げているアジア太平洋地域では、企業がテクノロジーの進化と規制の強化という2つの勢力に適応すべく奮闘しています。
2025年に入っても変化のペースは衰える気配を見せていません。ビジネスリーダーにとっては、優れた戦略を立ててこの大きな混乱を乗り越え、そこから生じるチャンスを掴めるかどうかが成功の鍵を握ります。『Splunkによる2025年の予測』レポートの公開後も、SplunkはAIの時代の次のステップを模索しています。このブログ記事では、アジア太平洋地域で今後1年間に特に重要になると考えられる3つのトレンドを紹介します。
アジア太平洋地域ではデータ漏えい事件や重要なインフラへの攻撃が増加し、サイバーセキュリティが喫緊の課題となっています。シンガポールだけでも、2023年に報告された政府機関でのデータ関連インシデントは201件にのぼり、前年比で10%増加しています。こうした状況を受けて、各国の政府で「サイバーセキュリティの重大度」を定義する動きが見られます。これには、サイバーリスクに効果的に対処するために組織に求められる取り組みを明確化する狙いがあります。
たとえばオーストラリアは、2023年から2030年のサイバーセキュリティ戦略の一環として、同国初の独立したサイバーセキュリティ法を導入しました。この法律では、企業がランサムウェア攻撃を受けて身代金を支払ったときに72時間以内に当局に報告することが義務付けられ、報告を怠った場合は高額の罰金が科されます。これらの規制は、組織がサイバーリスクにどのように対処すべきかについて新たな基準を示す点で、1つの転換点となります。
現在、サイバーセキュリティの重大度は組織が独自に判断している状況で、それが説明責任の必要性に対する認識のずれを生み、思わぬ罰則や風評被害を受ける原因になっています。サイバー犯罪者がAIを悪用して重要なインフラやサプライチェーンに巧妙な攻撃を行う事例が増える中で、重大度に関する明確で統一された定義を確立することが急務となっています。こうした基準があれば、SOC (セキュリティオペレーションセンター)にAIを導入して脅威をより効果的に検出して分析し、対応するなど、組織にとっても高度なプラクティスを導入しやすくなります。
統一した基準を設けることは、インシデント対応の改善だけでなく、信頼性の確立とレジリエンスの強化にもつながり、「ハイパーコネクテッド」なデジタル経済での長期的な成功を後押しすることになるでしょう。
AIに無制限に投資する時代は終わりました。初期の盛り上がりが落ち着きつつある中、企業はAIの実際の価値を評価することに目を向け始めています。AIの試験導入の一部で期待したほどの結果が出なかったことを受けて、2025年は、サイバーセキュリティの強化、従業員の生産性向上、カスタマーエクスペリエンスの改善など、より身近な課題の解消に的を絞った投資への転換が進むと考えられます。経営幹部も、ROIが高いAIイニシアチブを優先し、具体的で明らかな成果をもたらす取り組みでなければ資金を出し渋るようになるでしょう。
その結果、汎用的な大規模言語モデル(LLM)に代わって、精度、効率、サステナビリティの点でLLMを上回るドメイン固有の小規模言語モデル(SLM)が台頭すると予想されます。特にアジア太平洋地域では、大量のデータを処理するAIのワークロードが増大して、地域の電力需要が急増し、データセンターの運用コストが跳ね上がっています。IDC社のレポートによると、アジア太平洋地域でのAIデータセンターのエネルギー消費量は2027年までに146.2テラワット時に達すると見込まれます。そのため、より小規模で効率的なモデルへの移行は、AIシステムのエネルギーと計算需要の大幅な削減に役立ちます。
ただし、LLMは、初期費用はかかるものの、優れた拡張性やパフォーマンスが求められる多目的で複雑なタスクには今後も不可欠です。2025年には、組織のAI戦略において、この2種類の言語モデルをバランスよく組み合わせることが課題になりそうです。今後もAIの導入は進み、人手不足の緩和、デジタルオブザーバビリティの強化、カスタマーエクスペリエンスの効果的な改善に重要な役割を果たすことになるでしょう。
今日の複雑なアプリケーションアーキテクチャは監視が難しく、アジア太平洋地域では、ダウンタイムによる損失額が年間で1億8,700万ドルにも達したと報告されています。また、他の地域と比べて、ダウンタイムからの回復に時間がかかる傾向もあります。ダウンタイムによる直接的な金銭的損失だけでなく、デジタルエクスペリエンスの悪化は顧客の信頼とブランドイメージの低下をもたらします。
そこで注目されているのがオブザーバビリティです。オブザーバビリティを構築すれば、顧客のコンバージョン率や収益などのメトリクスを運用効率と関連付けて、システムパフォーマンスとビジネス成果のギャップを埋めることができます。オブザーバビリティによって、リアクティブなトラブルシューティングからプロアクティブな最適化へと移行することで、エンドユーザーに影響を及ぼす前にパフォーマンスの問題を検出して対処できるようになります。
そして今、AIがこのプロセスを大きく進化させています。
AIによって大量のデータを相関付けて要約することで、インサイトの抽出とデータに基づく意思決定が容易になります。AIドリブンのオブザーバビリティを実現すれば、問題の優先順位をすばやく判断し、チームの足並みを揃え、シームレスなエンドユーザーエクスペリエンスを提供するとともに、こうした取り組みのROIを常に実証できます。
セキュリティの強化、イノベーションの推進、AIの活用に共通する重要な要素が1つあります。それはデータです。最新のセキュリティ脅威は、不十分な暗号化、アクセス制御の欠陥、脆弱なガバナンスなど、データ管理の弱点を悪用します。これらの弱点は、データ侵害やランサムウェア攻撃のリスクにつながります。その点で、ログ、メトリクス、トレースを含むオブザーバビリティデータは、問題にプロアクティブに対応し、イノベーションを促進するためのインサイトを提供します。また、AI導入を成功させるには、クリーンで正確かつ偏りのないデータを使用することが極めて重要です。トレーニングデータの質が悪い場合、モデルにバイアスがかかったり、予測の精度が低下したりして、信頼も成果も損なわれます。
2025年もデータは成功の基盤であり続けます。今後5年間で世界で生成されるデータの量は394ゼタバイトを超えると予測されています。しかし、多くの組織がいまだにデータの潜在能力を最大限に引き出せずにいます。
アジア太平洋地域の組織が今後取り組むべきは、従来の保存とアーカイブを超えて連携したデータ管理戦略を取り入れ、リアルタイムのインサイトを獲得し、より的確な意思決定ができるようにすることです。テレメトリやサービス品質メトリクスなどの運用データは、従業員の生産性と顧客満足度の向上において重要な役割を果たし、イノベーションとレジリエンスの強力な推進力になります。
サイバーセキュリティからAIの進化まで、2025年のアジア太平洋地域では楽観ムードが薄れ、ビジネス環境の厳しさが増すでしょう。その中で組織は、高まる期待に応えるとともに、価値やROIを明確にすることを求められます。成功を掴むには、ただちに行動を起こすことです。基盤を強化し、急速な変化に適応できる俊敏性を身に付け、データを活用してより的確な意思決定を迅速に行える組織を目指して、今すぐ動き始めましょう。
このブログはこちらの英語ブログの翻訳、前園 曙宏によるレビューです。
Splunkプラットフォームは、データを行動へとつなげる際に立ちはだかる障壁を取り除いて、オブザーバビリティチーム、IT運用チーム、セキュリティチームの能力を引き出し、組織のセキュリティ、レジリエンス(回復力)、イノベーションを強化します。
Splunkは、2003年に設立され、世界の21の地域で事業を展開し、7,500人以上の従業員が働くグローバル企業です。取得した特許数は1,020を超え、あらゆる環境間でデータを共有できるオープンで拡張性の高いプラットフォームを提供しています。Splunkプラットフォームを使用すれば、組織内のすべてのサービス間通信やビジネスプロセスをエンドツーエンドで可視化し、コンテキストに基づいて状況を把握できます。Splunkなら、強力なデータ基盤の構築が可能です。