クラウドへの移行 とは、ITワークロード(データ、アプリケーション、セキュリティ、インフラなどのオブジェクト)をクラウド環境に移行することです。
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クラウドへの移行には、以下のようなさまざまな種類があります。
ローカルのオンプレミスデータセンターからパブリッククラウドのコンピューティング環境への移行 パブリッククラウドから別のパブリッククラウドへの移行 ハイブリッドクラウドまたはマルチクラウド 環境への移行 クラウドからクラウドへの移行 また、既存のアプリケーションをパブリッククラウドからオンプレミスのデータセンターに戻すリバースクラウド移行(別名:クラウドからの回帰、脱クラウド)と呼ばれる別の種類のクラウド移行もあります。
McKinsey社 によると、ほとんどの企業が2024年までにITホスティングの80%をIaaS (Infrastructure as a Service)、PaaS (Platform as a Service)、SaaS (Software as a Service)などの何らかのクラウド環境に移行することを検討しています。
クラウドは、スピードや規模の面で大きなメリットをもたらしますが、課題もあります。この記事では、クラウド移行に関する基本的な情報、メリットと課題、ベストプラクティス、そしてクラウド移行を成功させるためのポイントについて解説します。
クラウドに移行する理由 数多くの組織がデータやアプリケーションをクラウドに移行することを決めたのには理由があります。実際、移行は特別なことではなく、ごく一般的なことになっています。ここでは、組織が移行を選択する主な理由と、そこから得られるメリットをいくつか紹介します。
アプリケーションのモダナイゼーション: 使用しているシステムやアプリケーションがいつの間にか古くなっていたという組織は少なくありません。アップグレードはコストがかかる面倒なプロセスであり、そのまま使い続ける方が組織内の抵抗も少ないからです。しかし多くの場合、クラウドに移行することでモダナイゼーションのプロセスはスムーズになります。アプリケーションを最新化してクラウドインフラで実行すれば、ほとんどの場合はアプリケーションのスピード、パフォーマンス、セキュリティが向上します。 アプリケーションのモダナイゼーション戦略のさまざまなアプローチ、この戦略があらゆる組織にとって重要である理由、独自のモダナイゼーションの実施によるメリットと課題、着手時のベストプラクティスなど、アプリケーションのモダナイゼーションについて詳しくは、E-book『徹底解説:戦略的なアプリケーション最新化のためのデータ活用 』をご覧ください。コストの削減: かつては、企業がサーバーやそれに付随するインフラにコストをかけるのが当然とされていました。しかし、クラウドコンピューティングを利用すれば、企業はハードウェアやソフトウェアを購入して維持する必要がなくなり、減価償却費を計上する必要もなくなります。さらに、クラウドコンピューティングは競争の激しいビジネスであるため、企業はより安価なクラウドプロバイダーに移行したり、少なくともクラウド費用の値下げ交渉をしたりすることができます。ITチームの有効活用: オンプレミスのオペレーティングシステムは、定期的な管理と保守に大変な手間がかかるうえ、問題が発生したときのために常に誰かが待機していなければなりません。多くの場合、オンプレミスのインフラの維持はITチームにとって負担が大きく、反復的な作業が必要なため、チームは生産的な業務に時間を費やすことができません。クラウドインフラでは、保守、監視、対応業務の大部分がアウトソーシングされ、クラウドプロバイダーによって行われます。スピードと規模: 現在のほとんどすべての組織は、業務を行ったり顧客に良い印象を与えたりするためにオンラインツールを利用しています。クラウドコンピューティングインフラを導入すれば、組織はスピードを向上させ、規模を拡大し、一般的なオンプレミス環境では実現できないスピードでWebサイトを運用できます。トラフィックが急増しても、クラウドコンピューティングリソースを追加してオーバーフローを処理できるため、顧客がスピードや機能の低下に気付くことはありません。遅延の最小化: オンプレミス環境では、データセンターから遠く離れている顧客ほど、遅延(サービスの減速)に気付く可能性が高くなります。クラウドコンピューティング環境では複数の場所に複数のサーバーがあるため、顧客は世界中のどこにいても同じパフォーマンスでサービスを利用できます。新しいサービスの迅速な展開: オンプレミス環境で新しいアプリケーションをプロビジョニングする場合、サーバーの追加や新たなコスト、それらに伴うさまざまな作業が発生するのが一般的です。そのため、新しい製品やサービスを展開するスピードが大幅に低下し、コストが増える可能性があります。一方で、クラウド環境なら、新しいサービスをより迅速かつ安価に投入できます。クラウドへの移行がどのようなものなのかをより深く理解していただくため、以下のプレゼンテーションで、Atlassian社が1万人以上のユーザーをセルフホスティング製品からAtlassian Cloudプラットフォームにどのように移行したのか、そしてこの投資を正当化するビジネスケースについて説明します。
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クラウドへの移行を加速 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、オンプレミスからクラウドへの移行が急務となりました。McKinsey社 によると、およそ40%の企業が、感染の拡大中または拡大後にクラウドへの移行計画を加速させています。
クラウド移行に関する5つの「R」 「5つのR」と呼ばれるように、組織がデータやアプリケーションをクラウドに移行するための一般的な方法は5つあります。ここでは、その方法をシンプルなものから順番に紹介します。
リホスティング(Rehosting): 「リフト&シフト」とも呼ばれるリホスティングは、ITワークロードをオンプレミスサーバーからクラウドベースのサーバーに導入しなおすことで、コードの変更を最小限に抑えるクラウド移行プロセスです。リファクタリング(Refactoring): リファクタリングは、移行に際してアプリケーションへの変更が必須ではない場合でも、クラウド環境に合わせて最適化するためにアプリケーションをわずかに変更する方法です。アプリケーションのコアアーキテクチャには変更を加えません。リプラットフォーム(Replatforming): リバイスとも呼ばれるリプラットフォームは、リファクタリングと同じく、基盤となるアプリケーションコードを変更してクラウドにホスティングできるようにしますが、変更はより大規模になります。リビルド(Rebuilding): リファクタリングとも呼ばれるリビルドは、その名が示すとおり、新しいクラウドネイティブのアプリケーションソースコードを使用して再設計を行います。リプレース(Replacing): 再購入とも呼ばれるリプレースは、組織が独自に構築したアプリケーションを破棄し、クラウドプラットフォームでホストされているクラウドベンダー提供のサードパーティSaaSアプリケーションに乗り換えるという根本的な変更です。このシナリオで実際に行われるのはデータの移行だけです。
Oracle社 など、一部の業界リーダーは6番目の「R」として「リタイア(Retiring)」と呼ばれる方法を提唱しています。 ビジネスニーズとテクノロジー環境全体を評価した結果、一部のオンプレミスアプリケーションでは、移行するより廃止する方が得策となる場合があります。
クラウド移行の例とユースケース クラウド移行 の方法には多くの類似点がありますが、独自の特徴もあります。組織がクラウドへの移行を目指す理由を理解するために、一般的なユースケースをいくつか紹介しましょう。
eコマースプラットフォーム では、顧客の注文処理のインフラを自社のオンプレミスサーバーからクラウドに移行することで、重要なインフラの保守や、障害およびダウンタイム のリスクを気にする必要がなくなります。オンラインコンテンツプロバイダー は、すべてのコンテンツを社内のサーバーからクラウドホストに移行することで、顧客のニーズにリアルタイムで対応するのに必要なスピードと帯域幅を常に確保できます。生産性アプリケーション は、自社サーバーでセルフホスティングするのではなく、大手クラウドプロバイダーでホスティングすることで、可用性 、スピード、セキュリティを向上させることができます。モバイルアプリケーション は、可用性とスピードがユーザーからの信頼を大きく左右することから、大手クラウドプロバイダー2社による冗長クラウド環境を構築することで、障害やセキュリティ脅威のリスクを軽減できます。ビジネスサービス企業 は、提供する機能を社内で維持するのではなく、選択したクラウドプロバイダーにアプリケーションやデータを移行することで、需要に合わせて自動拡張したり、運用コストを削減したりできます。オンプレミス移行とクラウド移行の比較 先ほど、クラウド移行の「5つのR」を紹介しましたが、オンプレミスの移行ではサーバー間でデータとアプリケーションを移行します。同じ環境内で移行を行う場合、クラウド移行のプロセスも同じようになります。
オンプレミス移行の1つに、アプリケーションをある物理サーバーから別の物理サーバーへと移動するサーバー間移行という形式があります。この形式での移行は、アプリケーションを新しいサーバーに再インストールし、それに伴って移動が必要になったデータファイルをコピーする作業と基本的に同じです。
オンプレミス移行では、物理サーバーから仮想マシン(VM)に移行することもあります。VMとは、物理コンピューターの機能をエミュレートするソフトウェアアプリケーションのことです。VM環境は、テスト目的でセットアップされることも少なくありません。物理サーバーから仮想マシンに移行するアプリケーションは、移行前にインストールやセットアップを実行できます。
仮想マシン間の移行は、オンプレミスでもクラウドでも一般的です。この場合、ハイパーバイザー(コンピューター上で1つ以上の仮想マシンを実行して管理するプログラム)を使用してライブマイグレーションを実行できるため、稼働中のVMを停止することなく、あるサーバーから別のサーバーに移行できます。
クラウド移行の一般的な課題 他の大規模な技術変更と同じように、クラウド移行にも課題があります。ただし、適切な計画を立ててサービスプロバイダーと協力することで、これらの課題の大部分を軽減できます。
アプリケーションのパフォーマンス: クラウドアプリケーションはオンプレミスと同じように動作しないことがあります。すべてのアプリケーションがクラウド環境で正常に機能するわけではありません。そのため、アプリケーションの移行戦略を計画し、クラウドでの各アプリケーションの動作を精査して、相互運用性を確認しておくことをお勧めします。ここでも、クラウドプロバイダーのサービスを活用するのがよいでしょう。予期しないコスト: これは、クラウド移行についてよく耳にする課題です。多くの組織にとって、クラウドの主なセールスポイントの1つは、オンプレミスのインフラよりコスト効率が高いことであり、これはほとんどの場合に当てはまります。ただし、クラウド構成が適切に設定されていなければ、予想以上にコストがかかることがあります。契約しようとしているクラウドコンピューティングリソースが、移行するアプリケーションに見合う十分な処理能力を持ち、価格が必要以上に(想定する金額よりも)高くないことを確認しましょう。トレーニング不足: 基本的には、クラウドコンピューティングとオンプレミスインフラでの作業に大差はありませんが、クラウド上のアプリケーション管理については大きな違いがあります。そのため、クラウドインフラを管理するための適切なスキルセットを従業員に習得してもらったり、必要なトレーニングを計画したり、移行を支援する経験豊富なパートナーを外部から雇ったりするなどの対策が必要です。移行の戦略 クラウド移行戦略の策定は、他の重要な技術戦略を策定する場合とほとんど変わりません。重要なポイントは、ビジネスのニーズと目標を理解したうえで、それを達成するための各ステップを計画することです。
現状を把握する: 移行プロジェクトの基本的なステップの1つは、システム監視 ツールを使用して、データとアプリケーションが現在どこにあり、どのように動作しているか、ITインフラがどのように機能しているかを明確に把握し、クラウドに導入するためのビジネスケースを作成することです。そのためには、レガシーシステムを明確に把握する必要があります。重要な情報の一部は、システムによって生成されるマシンデータから取得できます。KPI (主要業績評価指標)を設定する: 移行中は、許容できるパフォーマンスレベルでシステム(CPU、ネットワーク、ストレージなど)が動作していることを確認する必要があります。KPIを事前に設定し、移行中のパフォーマンスを監視できるようにしておくことが重要です。クラウドでのセキュリティを確保する: アプリケーションとデータの安全性は常に重要ですが、クラウドへの移行中は構成の変更がセキュリティの脆弱性につながる可能性があるため、特に注意が必要です。すでにセキュリティソリューションを使用しており、マシンデータやログデータを取り込んで異常を特定できる状態であれば、移行中もネットワーク、データ、アプリケーションの安全性を確保できます。コンプライアンスの問題を検討する: 移行プロセスを開始する前に、自社と業界に適用されるすべての規制を把握します。マシンデータから算出した基準を設定し、移行の開始前にコンプライアンスの基準がわかるようにしておきましょう。コンプライアンス の問題や規制についてクラウドプロバイダーと事前に話し合い、移行やその後の関係が規制に準拠していることを確認します。クラウド移行ツール クラウドへの移行では、ほとんどの場合、アマゾン ウェブ サービス (AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureなどの大手クラウドプロバイダーのいずれかを利用することになります。これらのベンダーはそれぞれ、クラウド移行を支援するツールやサービスを提供しています。一般的な移行サービスは以下のとおりです。
データベースの移行: データベース移行ツールを使用すると、コードを書き換えたり、より複雑な他のツールを使用したりすることなく、あるデータベースから別のデータベースに、またはデータベースから別の種類のデータリポジトリ(データウェアハウスなど)にデータを転送できます。データ転送アプライアンス: データ転送アプライアンスとは、膨大な量のデータをクラウド環境にアップロードするための大容量のストレージデバイスです。オンラインデータ転送: データ転送アプライアンスと目的は同じですが、オンラインデータ転送では、ストレージデバイスを使用せずに高速ネットワークリンク経由でデータをコピーします。サーバーの移行: サーバーの移行はリフトアンドシフトプロセスとも呼ばれ、オンプレミスのワークロードを仮想化してクラウドに転送します。移行トラッカー: クラウド移行トラッカーを使用すると、移行の進捗状況を追跡したり、各アプリケーションにリンクされているサーバーを監視したりできます。クラウド移行のベストプラクティス 綿密に設計した移行計画に加え、移行の成功に役立つベストプラクティスを活用しましょう。その一部を紹介します。
クラウドに関する長期的なビジョンを持つ: 初めての移行では、特定のデータやアプリケーションを移行する必要性しか把握できていないかもしれません。しかし、クラウド環境全体の長期的なビジョンを計画すれば、今後の展開に役立つ意思決定を現時点でできる可能性が高くなります。クラウドサービスを慎重に選ぶ: この記事で説明したように、クラウド環境にはさまざまな種類があり、移行の種類もさまざまです。また、クラウドプロバイダーは多くのサービスを提供しています。移行コストが予想以上に膨らまないようにするため、必要なものはできるだけ事前に計画し、計画に沿って移行を進めましょう。すべての関係者に根回しする: どれほど綿密に計画を立てて移行に着手したとしても、混乱は生じるものです。関係者全員が計画を把握し、どのような影響が起こり得るか周知しておきましょう。各担当者の役割を明確にする: クラウドへの移行には多くの役割があります。移行を始める前に役割と責任を明確に定義し、移行中に全員が絶えず連絡を取り合うための明確なコミュニケーションガイドラインを用意しておきましょう。これらのベストプラクティスに加えて、ガートナー社 の「IT Roadmap for Cloud Migration (クラウド移行のITロードマップ)」では、以下の5つの主要な段階に沿ってクラウド移行を進めるよう提案しています。
1. 目標の調整
クラウド導入のさまざまなユースケースについて理解を深める ITの戦略目標に沿った、秩序あるクラウド戦略を定義する クラウドのコスト管理を念頭に置きながら、目標達成に向けた具体的な手順を定義する アプリケーションとチームの準備状況、ビジネスの優先事項、アプリケーションのモダナイゼーション戦略、およびベンダーの能力に基づいて、移行の意思決定の指針を策定する 使用状況と機能に関するデータとメトリクスを理解する 2. アクションプランの策定
クラウドに関するコンピテンシーを全社的に向上させる 複数のサービスプロバイダー(AWS社、Google社、Microsoft社など)を評価する クラウド特有のリスクに対する防御策を講じる ネットワーク、セキュリティ、およびIDのアーキテクチャとツールに対して実行可能な投資を見極める 3. 実行に向けた準備
移行するワークロードを特定し、セグメント化する クラウド管理ワークフローを確立する 実装のベストプラクティスを採用し、ワークロード配置分析を実施する 4. ガバナンスの確立とリスクの軽減
機密データの検出、監視、分析を優先する サードパーティツールを使って、セキュリティコントロールプレーンを確立する クラウドガバナンスに対するライフサイクルアプローチを開発する 自動化により、ガバナンス遵守のフィードバックをワークフローに直接組み込む 5. 最適化と拡張
既存のクラウド戦略と実装を推進するための投資を優先する 顧客中心主義を重視する部門横断的なチームの共通目標を設定する クラウドフットプリントを最適化し、進化させるための取り組みを繰り返す
移行を開始する方法 クラウドへの移行を始めるプロセスは、組織内の他の重要な技術的取り組みを始めるプロセスと変わりません。戦略と計画を立て、誰がいつまでに何をするのかを把握しておく必要があります。その他にも、規制要件など、組織が従わなければならない考慮事項があるはずです。この記事では、完全なクラウド移行計画を示すことはできませんが、考慮すべき重要なステップをいくつか紹介します。
移行するワークロード(データまたはアプリケーション)を選択します。 移行が必要なデータの量を判断します。 使われていないレガシーアプリケーションや古くなったデータを移行しないようにします。 ワークロード間のすべての依存関係を確認します。つまり、運用の継続に必要なすべてのものが移行対象になっていることを確認します。 どのワークロードをオンプレミスに残すかを決めます。特定のビジネスクリティカルなアプリケーションや、低遅延が求められるアプリケーションをデータセンターに残すという選択肢もあります。また、地理的な制約やその他の規制上の制約によって、オンプレミスに残すべきワークロードが決まる場合もあります。 たとえば、クラウドへのデータ移行方法のセクションで紹介した「5つのR」など、上記のすべての要素を考慮して、最も適切な移行の種類を決定します。 本番環境に移行する前に、移行対象のワークロードが正しく機能することを確認するためのテスト計画を作成します。 結論:クラウド移行には綿密な計画が必要だが、通常は大きなメリットが得られる クラウドは、現代のコンピューティング環境とそれに伴うデジタルトランスフォーメーションの取り組みにおいて欠かせない存在です。その価値を実現したいと考えている多くの組織にとって、クラウドへの移行 (および広範なクラウド戦略)は必須となるでしょう。組織は、潜在的な課題や問題を心配して、移行を先延ばしにすることがあります。確かに移行のプロセスで問題が発生することもありますが、それはあらゆる技術的変化について言えることであり、クラウド移行計画の推進を妨げるものではありません。何を達成したいのか、その目標への道筋は正しいのか(あるいは間違っているのか)を明確に理解し、適切なリソースと支援を確保すれば、クラウドへの移行を成功させることができると確信できます。
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