急速に進化する今日のソフトウェア開発環境において、マイクロサービスアーキテクチャは、拡張性と保守性に優れたアプリケーションを構築するための一般的なアプローチとなっています。しかし、モノリシックアプリケーションを独立した複数の小規模サービスに分割すれば、受信したリクエストを適切なサービスのインスタンスに効率的にルーティングすることが課題となります。そこで登場するのが、マイクロサービスのロードバランシングです。
マイクロサービスのロードバランシングとは?
マイクロサービスのロードバランシングの主な目的は、受信したネットワークトラフィックを複数のサービスインスタンスに分散し、1つのインスタンスにトラフィックが集中するのを防ぐことにあります。その結果、次のことが可能になります。
- 最適なリソースの利用:トラフィックの分散により、すべてのサービスインスタンスが効果的に使用されるようになります。
- アプリケーションの可用性の向上:1つのサービスインスタンスに障害が発生しても、トラフィックが正常なインスタンスに再ルーティングされます。
- レイテンシーの短縮:最も近いまたは最も速いサービスインスタンスにリクエストが転送されるため、応答時間が最小限に抑えられます。
マイクロサービスアーキテクチャでロードバランシングが重要な理由
マイクロサービスは多くの場合、インスタンスの動的なスケーリングが可能であり、トラフィックの需要に応じたサービスのスケールアップまたはスケールダウンが可能な環境で効果を発揮します。マイクロサービス環境には以下の性質があります。
- インスタンスがエフェメラル(一時的)になる:サービスインスタンスが短命になり、インスタンスの置き換えが多くなるほか、負荷を処理するために新しいインスタンスが起動されることもあります。
- サービスが分散される:マイクロサービスが、さまざまなサーバーやデータセンターに分散したり、場合によっては地理的に分散したりする可能性があります。
- トラフィックを予測できない:トラフィックパターンは急速に変化することがあります。そのような場合、インフラストラクチャを迅速に適応させることが必要になる可能性があります。
手動での構成やサーバーの静的リストに依存する従来のロードバランサーは、マイクロサービスのこのような性質に対応できません。そのため、マイクロサービスが稼働している環境の動的な性質を認識し、適応性の高い最新のロードバランサーを使用する必要があります。
マイクロサービスのロードバランシングに向けた戦略
ここでは、一般的に採用されるいくつかの戦略をご紹介しましょう。
- ラウンドロビン:これは最も簡単な戦略で、各リクエストを次のサービスインスタンスに順番に転送します。
- リーストコネクション:アクティブな接続が最も少ないサービスインスタンスにトラフィックを転送します。
- IPハッシュ:送信元または送信先のIPアドレスを使用して、リクエストを処理するサービスインスタンスを決定し、ユーザーが常に同じサービスインスタンスに接続されるようにします。
- レイテンシーベース:レイテンシーが最も低いサービスインスタンスにトラフィックを送信します。
- 地理ベース:ユーザーの地理的な場所に基づいて、最も近いサービスインスタンスにリクエストを送信します。
マイクロサービスのロードバランシングに利用できるツールとソリューション
マイクロサービスエコシステムのロードバランシングのニーズに対応したツールはいくつか存在します。
- ハードウェアロードバランサー:F5社のBIG-IPなど、従来型のハードウェアベースソリューションは強力ですが、短命なマイクロサービスに必要な俊敏性に欠けていることもあります。
- クラウドロードバランサー:アマゾン ウェブ サービス(AWS)やGoogle Cloudなどのクラウドプロバイダーは、Elastic Load BalancerやGlobal Load Balancerなど、それぞれのエコシステムにスムーズに統合できるマネージドロードバランシングソリューションを提供しています。
- サービスメッシュソリューション:IstioやLinkerdなどのツールは、ロードバランシング機能だけでなく、サービスディスカバリー、トラフィック管理、セキュリティなどの追加機能を提供しています。これらのツールはマイクロサービスを念頭に設計されており、Kubernetesのようなコンテナオーケストレーションプラットフォームの強力な機能にも対応できます。
- オープンソースのロードバランサー:HAProxy、Nginx、Traefikなどのソリューションは、柔軟性が高く強力で、マイクロサービスのデプロイでよく使用されています。
考慮すべきベストプラクティス
- サービスディスカバリーの統合:ロードバランサーにサービスディスカバリー機能が組み込まれていることを確認しましょう。サービスディスカバリー機能付きのロードバランサーは、サービスのスケールアップまたはスケールダウンに応じて自動で調整されます。
- ヘルスチェック:サービスインスタンスの健全性を定期的に確認しましょう。不健全な状態にあるインスタンスは、トラフィック分散から排除する必要があります。
- データの永続性の考慮:サービスでセッションデータを保持する必要がある場合は、ロードバランシング戦略でセッションの永続性がサポートされていることを確認してください。
- 監視とログ収集:パフォーマンスメトリクスを継続的に監視し、必要に応じて戦略を調整しましょう。ログの取得は、問題の診断やトラフィックパターンの理解に役立ちます。
マイクロサービスのロードバランシングにおける一般的な課題
- 負荷の把握:
- 問題点:従来の監視ツールはノードごとの可用性に重点を置いており、サービスの状態や異なるノード間での負荷分散の状況が考慮されないことがよくあります。その結果、負荷が不均衡になり、パフォーマンスが低下する可能性があります。
- 解決策:負荷分散の状況を詳しく把握するために、分散係数(標準偏差と平均値の比率)を計算します。比率が低いほど負荷が適切に分散されていることを示し、比率が高いほどノード間での負荷の差が大きいことを示します。
- 動的な変化への対処:
- 問題点:クラウド環境のインフラストラクチャは、アプリケーションの要求や顧客のニーズに応じて調整されるため、本質的に動的です。このような変化には、周期的な変化(季節的な需要変動など)もあれば、予期しない変化(トラフィックの突然の急増など)もあります。
- 解決策:ロードバランシングの有効性比率のベースラインを長期間追跡することで、パフォーマンスに関するインサイトが得られます。現在の比率を過去の移動平均との比較により、一時的な環境の変化と異常な変化を区別できます。
- 問題の発生の検知:
- 問題点:問題が長引けば、SLA違反となり、顧客の信頼を失い、収益の損失につながる可能性があるため、問題をタイムリーに検出して解決することが極めて重要です。
- 解決策:動的なしきい値または外れ値に基づくアラートを使用すれば、ロードバランシングの有効性比率に問題が生じている可能性があることをチームに通知できます。たとえば、履歴データ(1年前や1日前など)に対応したアラートを設定することで、新たなパターンや容量調整の必要性に関するインサイトが得られます。
- 新たな問題の防止:
- 問題点:信頼を維持しながらリソースを節約するには、システム停止の可能性やパフォーマンスの問題を事前に特定して対処することが不可欠です。
- 解決策:分析ベースのアラートにより、本番環境全体の包括的なメトリクスから新たな傾向を検知できるようになります。新たな傾向を早期に認識することで、チームは事前に対策を講じて、問題の拡散を防ぐことができます。
マイクロサービスアーキテクチャの課題に効果的に対処するには、アプリケーション自体からその基盤となる最新のインフラストラクチャまで、全レイヤーを対象としたリアルタイムのストリーミング分析でパフォーマンスデータを評価するというパラダイムシフトを実現する必要があります。このような分析がもたらす真のメリットは、アプリケーションのパフォーマンス、サービスの可用性、インフラストラクチャの容量、およびエンドユーザーのエクスペリエンスを網羅した、包括的なインサイトを獲得できるようになることです。アプリケーションパフォーマンス監視にプロアクティブなアプローチを採用し、インテリジェントな分析ベースのアラートを活用することで、チームはタイムリーで関連性のある実用的なインサイトを獲得できるようになります。
まとめ
マイクロサービスのロードバランシングの目的は、トラフィックを分散するだけでなく、マイクロサービス環境でレジリエンス、応答性、拡張性を確保することにあります。アーキテクチャは進化を続けます。その進化に合わせてロードバランシングのツールと戦略も進化を続けなければなりません。適切なロードバランサーを選択して導入すれば、そのロードバランサーがいわば縁の下の力持ちとなって、マイクロサービスという荒波を難なく乗り越えられるようになります。
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